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消費税の増税観測の真意は何か
  塩川財務相をはじめとして、政財界に「消費税アップ」の声が高まっている。その理由は景気後退による税収不足にある。確かに、今のままの税制では当分の間歳入不足が続き、その穴埋めのために赤字国債の発行を余儀なくされてしまう。国債発行30兆円のたがが外されるどころか、国の財政状態は極めて厳しくなる。現在でさえ、格付機関から日本国債の格下げが行われているが、これ以上、国の財務内容が悪化すれば、おそらく屈辱的な「格下げ」に遭うであろう。
  しかし、だからといって病人状態の日本経済の中で消費者にさらなる負担を強いる消費税アップは適当な方策であろうか。かつて、消費税が3%から5%にアップしたときには、極めて顕著な駆け込み需要があり、その反動として5%になった直後の消費は激減したが、また同じことが起こるであろう。さらに悪いことに、当時に比べると消費マインドはさらに冷え込んでいる。「駆け込み需要」があればまだよい方で、「消費を控える」という行動に出る可能性が極めて高い。
  この不安を実感しているのか、政権の責任者である小泉首相は、財務相の発言に対して、「私にそのような考えはない」と否定している。これは塩川発言の否定になるが、必ずしも額面通りには受け取れない。なぜなら、首相はこれまでも当初は否定しておきながら、最終的には「総意だから」というような逃げ道を作って、事実上の政策転換を行ってきたのである。国債発行30兆円の総枠を破って景気対策に舵取りを切ったのがよい例であろう。
  今回も先に関連の大臣や財界の要職にある人たちにアドバルーンを揚げてもらい「それが民意ならば」という形で消費税アップにも手を染めるのではないだろうか。
  小泉首相のこれまでの政治手法を見るとそれが極めて現実味を帯びてくるのである。確かに欧米では消費税である間接税の割合が高く、10%を越えているのは不思議ではない。そこから考えるとわが国の税の体系も消費税という間接税を増やし、法人税などの直接税の減税に向かうのは一つの流れかもしれない。
  しかし、今やらなければならないのは、不景気、倒産、リストラにおびえる国民の不安を解きほぐすことではないか。その後に、財政の再建の選択肢として、消費税のアップがあるのは仕方がないことである。しかし、この順序を間違えると日本経済はとんでもないブラックボックスの中にはまり込んでしまうことを危惧するのである。
(経済評論家  石井 勝利)
2003.01.14
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