>  今週のトピックス >  No.550
不況のあおりで障害者雇用率が低下
〜各種雇用促進策は機能するのか〜
  長引く不況による失業率の増加が、大きな社会問題となっている。この厳しい雇用環境が端的に現われているもう一つの数字、それが民間企業における障害者雇用率だ。
  昨年末に厚生労働省が発表した調査結果によれば、常用労働者数56人以上規模の民間企業において、障害者の実雇用率は1.47%となっている。この数字は前年より0.02ポイントの低下、1.8%という法定雇用率を0.33ポイント下回っていることになる。
  特に問題とされるのは、常用労働者数99人以下の小規模企業の動向だろう。この規模での実雇用率は1.52%で、前年と比較して実に0.1ポイント以上低下している。ここ10年あまりの動向を見ても、平成5年の2.1%をピークとして、その後は雪崩を打ったような状態。皮肉なことに、平成10年に法定雇用率が引き上げられた後の降下ぶりがさらに激しくなっている。
  養護学校の教員に聞いた話では、メーカーなどが従来下請けに出していた仕事を海外に発注するようになり、障害者が数多く携わっていた比較的単純な作業が極端に少なくなっているという。また最近では、例えば知的障害者でも複雑な作業は可能ということが常識になりつつあるが、それはあくまでマネジメントのしっかりしている大企業の話であり、システムづくりに余裕のない中小企業はまだそこまで至っていないという話も聞く。
  雇用促進のカギとなるのは、やはり学校現場などにおける障害者の就労支援だろう。例えば、昨年から群馬県では、緊急地域雇用創出特別基金事業として養護学校等への職場開拓協力員の派遣を始めている。その役割は、障害のある生徒が就業体験(インターンシップ)などを行う際に付き添ったり、新たな就労場所の拡大に尽力したりするというもの。障害者の職業訓練においても、厚生労働省がポリテクセンターや委託訓練等による職業訓練機会の拡大をうたい始めている。
  また昨年、「障害者雇用促進法」が改正されて、ここでも新たな支援策が掲げられた。
  例えば、地域に障害者就業・生活支援センターを設けて、トータルな相談支援事業を行うという。各職場に対しては職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣して、受け入れ側の職業習慣の確立や同僚の障害者特性に対する理解を深めるといった事業もスタートした。
  だが、こうした一連の施策というのは、現場の実情に応じて機能するかどうかが重要であり、ただ窓口を設け、人材を育成すれば済むというものではない。例えば、公共交通機関のバリアフリー化が進まない地域においては、一定以上の遠距離通勤ができず、それゆえに就業機会が狭められている例を聞いたことがある。障害者の職業生活をきちんと追い続けることで、何が就労の弊害となっているのかを細かく分析する目も必要だろう。
  日本の障害者施策が、欧米諸国に比べて遅れている背景には、こうした生活に密着した視点が欠けている点が挙げられる。まずは、障害者側のニーズを地道に聞き取る作業にもっと力を注ぐべきはないだろうか。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.01.14
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