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障害者支援費制度が大混乱
〜厚労省の見解一変で、4月スタートが困難に?〜
  連日、厚生労働省に全国から障害者団体が押し寄せて、省前が騒然としている。すでに一部マスコミで報道されているように、今年4月から導入される障害者支援費制度において、厚生労働省が「ホームヘルプの利用上限の設定」やいくつかの事業に対する補助金の一般財源化を打ち出した。障害者側にとっては「寝耳に水」の方針であり、省側から発表があった1月9日以降、抗議活動と交渉が繰り返し行われているのである。
  特に問題なのは、1カ月120時間(1日4時間)という利用上限の設定だ。厚生労働省の見解では「それ以上は国の補助が出ないというだけで、(実際に制度を運営する)市町村の上限をつくったものではない」としているが、現状の地方財政を考えれば「上限が発生してしまう」ことに変わりはない。
  障害者の中には、24時間ヘルパーの介助がなければ命にかかわる人も多い。全国で約45万人といわれる知的障害者のうち、4分の1以上が施設で暮らしているが、これは欧米に比べて相当に高い比率である。障害者が地域で自立して生活するためには、ホームヘルプ事業の充実は欠かせないわけだ。
  支援費制度というのは、障害者自らがサービスの種類や事業者を選んで申し込み、その費用の支給を市町村に申請するという制度である(利用者は決められた比率の自己負担を支払う)。障害者が自らサービス(主に在宅サービス)を選択できるという点で、行政側に裁量権があった措置制度は、大きく変わることになる。もちろん、そのために「サービスの量や質が低下する」ことがあっては、障害者にとっては死活問題である。
  だからこそ、障害者団体は何度も行政と交渉しながら「サービスに上限は設けない」という省側の言説をとりつけ(厚生労働省のホームページでも、いまだにはっきりその旨は記されている)、その結果、多くの障害者団体が支援費制度を歓迎、あるいは容認するに至ったのである。
  ところが、制度スタートも間際になって、突然厚生労働省の見解が覆った。いったい省内で何があったのか、政治家や障害者団体の間ではさまざまな情報が飛び交っている。これらを整理すると、どうやら2年後に障害者ヘルパー事業を介護保険制度とドッキングさせるという話が出ているらしく、いまから上限を設けることで制度上の整合性をとりつけたいのだという(全国障害者介護制度情報より)。
  もし、そうだとするなら、最初から「上限設定はありえる」と明確にしておくべきだった。「障害者団体がうるさいから」という意図が働いて隠していたのだとすれば、官僚の意識の低さに驚くほかはない。そもそも、上限設定をすれば、自治体はどうするのか(すでに自治体からも抗議の声が上がっている)、それによって障害者の生活はどうなるのか。丁寧に現場レベルでシミュレーションしていけば、福祉のプロなら簡単に分かるはずである。
  混乱はますます深まり、国会会期中に政治問題化する気配も漂いはじめた。一方、すでに支援費制度に向けて、事業者指定などは進行済みだ。いったい厚生労働省は、どう収拾をつけるつもりなのだろうか。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.01.28
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