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介護報酬の改定案まとまる(1)
〜「施設から在宅へ」を実現するには〜
  今年4月から、介護保険サービスにおける報酬単価が改定される。単純に単価を変えるだけでなく、サービスの枠組みも一部改定されるなど、制度自体にテコ入れがなされる予定だ。
  その新報酬案が、1月20日の社会保障審議会介護給付費分科会で厚生労働省から提示され、23日に審議会の了承を得た。すでにマスコミ各社の報道では、施設4%減・居宅0.1%増、全体で2.3%減という数字が大きく取り上げられ、「居宅サービス事業者の経営状態に配慮しつつも、施設サービスの自己負担が下がるためにかえって施設入所の志向が高まるのではないか」という論調が並ぶ。
  確かに総合的な数字をふかんすれば、そういうことになるかもしれない。市場原理からすれば、厚生労働省がうたう「施設から在宅へ」という流れには程遠いといえるだろう。
  だが、個々のサービス単価をじっくり見て行くと、面白い仕掛けがあることに気付く。通所サービス(デイサービス・デイケア)と短期入所サービス(ショートステイ)がそれだ。この2つは居宅サービスに属しているが、同じ居宅サービスである訪問介護の家事援助費が、生活援助という形で単価を上げたのに対し、こちらの方は全体的に単価を下げている。
  そもそも、1日1〜2時間、週に数回という訪問サービスを少しくらい増やしたところで、「施設から在宅へ」という流れが加速するとはとても思えない。施設の強みは何といっても「24時間365日、プロの介護職が付いている」こと。これに対抗できる安心感を訪問サービスだけで作り出そうとするなら、ヘルパーステーションを併設させたケア付き住宅のような環境を提供するしかないだろう。(これを実現するには、自治体が本気で介護事業の基盤整備に乗り出す必要があるが、そこまで気概のある自治体はまだ数例しかない)
  在宅介護を早急に推進するのであれば、訪問系サービスよりも、むしろ通所や短期入所系のサービスを使いやすくする方が先だろう。もちろん、訪問系サービスをリーズナブルにすることも大切だが、訪問系というのは、サービスを提供する側が十分気を配らないと「密室性が高い」「閉じこもりがちになる」という弊害が常に顔をのぞかせる。利用者の急な体調変化などへの対応が遅れがちになるというデメリットも無視できない。
  これに対し、通所・短期入所系サービスは、利用者同士が顔を合わせることで交流機会が生まれやすい、きちんとした第三者評価の仕組みがあれば開かれた環境の中で高齢者虐待などが起こりにくいというメリットがある。介護疲れに陥りがちな家族にとっても、まる1日から2日程度要介護者と離れることでリフレッシュがしやすくなり、メリハリのきいた介護ができるだろう。
  確かに、今回の介護報酬の改定案にはまだまだ問題点も多い(この点は次回指摘したい)。だが、少しずつではあるが「施設から在宅へ」の種はまかれている。今回の改定案をたたき台として、2年後の制度改正に向けた議論を、焦点を絞って築き上げていくことが必要だろう。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.02.04
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