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国債の利回り低下に含んでいるリスク要因
  国債の利回りの低下が止まらない。1月28日の債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物利回りが低下(価格は上昇)し、一時は0.775%となった。これは史上最低の利回りで、1998年10月につけた最低水準に並んだ。
  これは、国債の買い意欲の強さを物語るもので、価格の異常な上昇が背景にある。このような現象は、他の投資対象に魅力がないどころか、リスクが拡大していることに機縁している。
  特に、アメリカのイラク攻撃の可能性が強まっていることなどから、株式市場が世界的に軟調になっていることはリスク拡大の最大の要因である。それは同時に、投資信託などの運用実績の低下にもつながっている。
  そのため運用資金は、リスクが少なくそこそこの利回りが確保できる国債に集まっている。さらに日銀が国債の買い入れ量を拡大していることも、買い安心感を誘い、国債価格の上昇を招いている。
  しかし、このような国債価格の上昇による「利回り低下」現象は、ある意味では異常であり、「債券バブル」の様相と言っても過言ではないだろう。ただし、消去法で国債に買いが集まってはいるが、比較的短期の運用資金なので、先行き株価の復活があれば、資金の国債から株式への移動が起きることは確かだ。
  このことは、やがては国債の暴落(利回りは上昇)のリスクをはらんでいることを意味する。
  行き場を失った資金が仕方なく国債に集まっていることを見ると、株式市場の動きに国債相場もダイレクトに影響を受けるわけである。
  景気予測の下方修正が行われている現在では、国債相場のさらなる上昇と過熱化は容易に予測ができる。おそらく、秋ごろまではこのような様相が続くのではないだろうか。
  そうなれば、市場金利の低下が進み、銀行や生損保などの運用実績の低下は免れない。金融市場はさらに厳しい状況が続き、企業倒産による不良債権処理が急がれている金融関連業界には、ますます厳しい状況になることが予想される。
  ただ、今の状況も急変する可能性がないわけではない。なぜならば、株式の軟調の要因がイラク情勢にあり、何らかのきっかけで紛争の勃発や解決に向かった場合には、株式市場の環境が変わるからだ。特にアメリカ経済は、日本とは違い回復の傾向が顕著なので、ニューヨーク市場の復活する可能性は捨てきれない。
  そうなれば、イラク情勢で下がっている株式は反転し、上昇に向かうだろう。反面、国債市場への資金流入が止まる。このようなリスク要因も頭に入れておかなければ、債券バブルの後遺症が残りかねない。
(経済評論家 石井 勝利)
2003.02.11
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