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固定資産の減損処理導入で企業会計に厳しいシグナルが
  民間企業の財務内容の明朗化に向けた動きが、より鮮明になってきている。このほど、国内の会計基準を決める民間団体の企業会計基準委員会は、次のような会計基準の明確化に向けた方針を決めた。
  2006年3月期から導入する企業の固定資産の減損会計について、固定資産の含み損が発生した場合における損失処理する対象物件の選択基準を、市場価格が簿価を3割以上下回った場合とした。この対象は自社ビルや貸し付けの不動産などであるが、企業の保有している資産はデフレや業績悪化で価値が目減りしている。
  含み益の発生がほとんどなく含み損が大半という物件が多いため、固定資産の減損会計は企業の財務内容をガラス張りにし、そのために対象の基準が厳しくなり、損失処理を促すことになる。アメリカではすでに前から行われている会計処理であり、日本の企業会計を国際標準に近づけるためには避けて通れない道である。
  企業の保有不動産に対する減損会計は、昨年8月に金融庁の企業会計審議会が導入を決定し、これを受けて会計基準委員会が適用指針づくりを進めてきたものである。その結果、2月下旬にも素案を公表する予定であることが新聞報道で明らかになった。
  それによると適用指針の焦点の一つは、損失処理する物件を選ぶ具体的基準である。賃貸ビルや本社ビルのように市場価格がある程度分かる物件については、前にも述べたとおり、市場価格が簿価を3割以上下回ったものについて、損失計上が必要かどうか精査する模様である。
  これが実行に移されれば、企業の隠れたマイナスの資産、すなわち、不動産の含み損が会計上で表面化することになる。それは株価の評価損と同じことであり、時価に比べて調達価格が高ければ、簿価での会計処理は不可能になる。
  そうすると、業績の悪い企業はさらに会計上の数字が悪化することになる。業績の数字は株価にもダイレクトに反映されるので、含み損を大量に抱えた企業にとっては危機的な状況にもなりかねない。
  業績の悪い大企業は借入金が過大であるだけではなく、バブル期に取得した不動産を大量に抱え込んでいる。現在はリストラや業務の縮小、銀行からの債権放棄などで一時しのぎできていても、不動産の損失計上で財務内容はさらに悪化するだろう。
  地価の上昇や高度の資産活用もそう簡単には進まない。現在のデフレが継続している間は、企業にとって保有不動産が重荷になっており、企業会計処理に当たっては、さらなる再生のための対策が必要になってくる。
(経済評論家 石井 勝利)
2003.02.18
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