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公的年金の引き下げ額が0.9%に決定
●2003年度の公的年金給付額が0.9%減額される
  政府は2002年の消費者物価指数が下落したことを受け、2003年度の公的年金給付額を0.9%引き下げることを決定した。公的年金は、物価変動に合わせて給付額が変わる「物価スライド制」がとられているが、減額されるのは今回が初めてだ。
  これにより厚生年金、国民年金、公務員などが加入する共済年金、各種の福祉手当について、それぞれ0.9%ずつ減額されることになる。
  厚生労働省が想定するサラリーマン家庭(夫は厚生年金に40年間加入、妻は専業主婦)のモデルケースでは、年金の受給額(月額)は23万5,992円と、現在より2,133円(年間2万5,596円)減少する。同様に、国民年金に40年加入する自営業者夫婦のケースでは、月額1,200円(年間1万4,400円)減少する。
●3年間の物価スライド凍結を解除
  公的年金の物価スライド制は、前年の消費者物価指数の変動に応じて年金の給付額を変える仕組みであり、当然、物価が下がれば年金の給付額も下がることになる。政府は、ここ数年来のデフレにもかかわらず、年金減額は高齢者の消費を冷え込ませ、景気に悪影響を与えかねないとの見方から物価スライドを凍結し、年金の給付額を据え置いていた。
  しかし、デフレの長期化による年金財政の悪化や、高齢者優遇に対する若年世代の不満の高まりを受けて、ついに物価スライドの凍結を解除し、年金減額に踏み切ることになった。これまでの度重なる制度変更により、年金制度に対する信頼が揺らいでいることから、高齢者の特別扱いをやめて基本ルールを順守すべきだという世論が高まったことも、理由の一つだろう。
●消費者物価指数は4年間で2.6%下落
  物価スライドの凍結解除に向けて、政府は昨年から年金の引き下げ額をいくらにするかについて検討してきた。本来なら、物価の下落が始まった1999年から2002年までの下落率の合計をとるべきだが、それでは年金の減額率が2.6%にもなり、高齢者への影響が大きすぎる。結局、2002年の下落率(0.9%)の分だけ年金が減額されることになった。(表参照)
【消費者物価指数の前年比と公的年金の増減率】
消費者物価指数(総合指数)の前年比 翌年の公的年金の増減率
1999 ▲0.3% 据え置き
2000 ▲0.7% 据え置き
2001 ▲0.7% 据え置き
2002 ▲0.9% ▲0.9%
●世代間の不公平感をなくす制度へ
  現在、年金収入だけで暮らしている高齢者世帯は全体の6割を占める。今後、医療費や介護保険料の負担増が見込まれる中での年金減額は酷な話だが、それでも年金制度の維持のためには基本ルールの順守が不可欠だ。
  高齢者を特別扱いすればそれだけ現役世代の負担が増え、次世代の負担も膨らむことになる。事実、年金が据え置かれた3年間について物価スライドを適用していれば、給付額で約1兆円、国庫負担分は2,000億円ほど節約できたという試算もある。それだけ現役世代が余計に負担していたということだ。
  そもそも現役世代は支払った保険料よりも受取額の方が少ないことが確実視されている。その不公平感が保険料の未納者を増やし、年金制度の空洞化を招いてきたという構造がある。
  現役世代の年金に対する信頼を取り戻し、長期的に年金制度を維持するためには、どの世代にとっても公平でシンプルな仕組みをつくる必要があるだろう。2004年の年金制度改正では、世代間の不公平感を緩和するためのさらなる方策が求められるが、今回の物価スライド凍結解除はその方向性を確認する第一歩といえそうだ。
(社会保険労務士・ライター 本田 桂子)
2003.02.25
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