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個人向け国債の売れ残りは何を意味するのか
  財務省が有名芸能人を惜しげもなく起用したテレビCMなどの宣伝効果が功を奏し、順調な滑り出しを見せた個人向け国債であったが、ここに来てその雲行きが怪しくなってきたようである。
  多くの金融機関で初回発行枠を発売当日に完売し、その結果を受けて2回目の発行枠が増額発行されるなど、発売当初はどちらかといえば明るいニュースが中心であった。しかし、初回発行の個人向け国債のうち185億円分が、一部の証券会社や銀行で売れ残り、財務省が急きょその売れ残り分を再配分したことが明らかになった。
  では、順風満帆に見えた個人向け国債に、なぜ売れ残りが発生してしまったのかという理由を、購入者側と販売者側の両方の立場から考えてみる。
  まず、購入側すなわち個人投資家側からは、次のような理由が考えられる。
  1. 多くの銀行では、月々105円(年間1,260円)の口座管理手数料が必要となり、購入金額が一定額を上回らないと実質元本割れが発生。
  2. S&P、ムーディーズ、フィッチなど、海外の格付け機関による日本国債の格下げに伴う国債投資への不安。
  3. 1年以内の中途換金は原則不可能。その後の中途換金の場合は、直近2回分の利息相当額が徴収される。
  4. 当初話題になった利息非課税という措置が見送られたことによる商品の魅力低下。
  5. ペイオフ全面解禁が2年延長され、普通預金などは平成17年3月末まで全額保護が継続されることになったため、ペイオフ対策としての国債購入というニーズの減少。
  6. 変動金利のため、今後の金利がどうなるのか未定という漠然とした不安。
  中でも、手数料が無料の郵便局は500億円を完売している点から考えれば、1.は特に大きな理由と考えられる。一方で、販売者側の立場から見た売れ残りの発生理由は、
  1. 変額年金や投資信託などと比べ販売時の手数料が低いので、積極的な販売を行わなかった。
  2. 積極的な販売を行ったにもかかわらず、ペイオフ延期や銀行の資本増強案による金融不安の後退などによって、顧客の反応が予想より鈍かった。
  などが考えられる。中でも、1.の理由は、フィービジネスの確立途上である国内銀行にとっては大きな要因といえるだろう。
【今後の個人向け国債の発行予定】
  募集期間 発行日 発行額(予定分含む)
第1回 2月3日 3月10日 3,300億円
第2回 3月上旬 4月10日前後 3,000億円〜6,600億円
第3回 6月上旬 7月10日前後 3,000億円〜6,600億円
第4回 9月上旬 10月10日前後 上記発行枠の結果次第
第5回 12月上旬 1月10日前後 上記発行枠の結果次第
  今後、第1回の3,300億円を上回る額が発行された場合、売れ残り額がさらに拡大する可能性も十分ありうるだろう。日本の債券において、理論上最も信用力があるとされる国債が売れ残るという状況は、さらに日本の信用力低下を促進する悪材料にもなりかねない。よって財務省は、売れ残りの原因がどこにあるのかを十分検証し、その課題を解決していく体制を組んだ上で今後の発行額を決定しなければ、この個人向け国債の売れ残りが引き金となり、日本国債暴落という最悪の事態を招くことにもなりかねない。
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2003.02.25
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