>  今週のトピックス >  No.579
住宅金融公庫が住宅ローン元本の物価連動方式導入へ
  小泉首相が原則廃止を打ち出している住宅金融公庫だが、このほど、財務省と住宅金融公庫が新たな住宅ローンを検討していることが明らかになった。
  新型の住宅ローンは、物価動向に応じて借り入れ元本が増減するというもので、来年中にも導入されるものとみられる。
  現在の経済状況では、デフレの進行により相対的に現金の価値は上がっていく。そのために、年収や地価は当然ながら下がっていくことになる。このような状況では住宅ローンを借りる側からみれば、ローンを返済しても元本の実質的な価値が増えていく。返しても返しても、ローンの負担が減らないことになるわけである。このような状況は過去にはなく、いわば、「望みなき住宅ローンの未来」である。
  財務省などがこのような不安を少しでも和らげようとしたのが今回、元本変動の考え方を打ち出した意図である。その案によれば、物価の変動に合わせて元本も変動する仕組みだ。
  すなわち、デフレで貨幣価値が上がれば、それに合わせて価値が上がった分を元本に反映する。たとえば、公庫の住宅ローンを2,000万円借りたときに、1年後に物価が2%下がれば、ローン元本の2%である40万円が実質負担増になるので、それを差し引いて自動的に1,960万円になる仕組みである。このような方式はいままでにはなく、デフレ経済の深刻さを改めて浮き彫りにしている。金利は従来どおり固定金利制のまま維持するようである。
  そうなると、民間金融機関の住宅ローンの貸し出し方式にも微妙な影響が出てくることは避けられないであろう。民間金融機関の住宅ローン金利は変動金利制になっているが、今のところは、元本の変動までは考えられてはいない。
  しかし、公庫の新型ローンの反響が大きければ、ある程度は民間の住宅ローンも考えざるをえないであろう。
  ただ、公庫融資自体は融資金額などの規模を減らしていき、2005年には廃止の方向である。従ってこの新型住宅ローンは、独立行政法人に引き継がれるとみられる。
  デフレ時代で資産や金利の低下傾向が当たり前になっている中で、サラリーマンなどの住宅ローンの借り入れに対する不安感を、まずは公的ローンから取り除いていこうという姿勢かもしれないが、このような制度は必ずしも喜べない。
  なぜならば、国債の大量発行でインフレが起き、物価が上がれば、公庫の新型ローンの借り入れ元本が増える恐れが当然あるからだ。目先の制度に手を付ける前に、デフレそのもの、すなわち、日本経済の病根に本格的に手を付ける方が先ではないのか。まだまだ議論の余地がありそうだ。
(経済評論家 石井 勝利)
2003.03.11
前のページにもどる
ページトップへ