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介護先進国デンマーク(前編)
〜日本の介護現場が目指すべきチームケア〜
  3月1日から9日間、非営利法人介護現場支援センターの主催で、デンマークの介護現場を視察する機会に恵まれた。視察地域は、コペンハーゲン市とその北側にある小さな市・ビアケロド。3月とはいえ日中でも零下となる寒さの中、高齢者住宅や介護ホーム、リハビリセンターなどを訪ねた。
  このたぐいの視察といえば、表面だけを見聞きして「すごい、すごい」と絶賛するだけで終わりがちだ。しかしそれで実りがあるのかという従来の反省を基に、「なぜすごいのか」を現場の視点できちんと掘り下げることを目的とした。さらに「日本ではどのように取り入れていけるのか」まで考えることに時間を費やすことにした。
  デンマークの高齢者介護で特徴的なのは、「施設から在宅へ」という点と「ケアの実質的運営は市町村が行う」という点だ。この2点に限れば、日本の介護保険制度と理念は同じである。問題なのは現場のやり方であり、「日本ではまねできない」と最初からあきらめるのは間違いであることが分かる。
  現場で象徴的だったのが、チームケアの仕組みである。「施設から在宅へ」という流れの中、地域社会において要介護高齢者が自立した生活を築くためには、さまざまな職種の人々がかかわらなければならない。そして、それが効果的に機能するためには、異なる職種間で、利用者情報をしっかりと共有することが求められる。
  訪問したコペンハーゲン市は15の地域に分けられており、その一つビスペビャーオ地区のチームケアを視察した。この地区には三つの在宅介護事務所があり、それぞれに3〜4の介護チームが設けられている。一つの介護チームには、看護師とヘルパーがメンバーとして参加。つまり、同じ組織の中で看護職と介護職が常時連携する体制にあるわけだ。
  日本の多くの事業者では、ヘルパーステーションに看護職がおらず、訪問看護ステーションにヘルパーがいない。そのため両者の連携は必要最低限に絞られ、間に立つケアマネジャーが多忙でなかなか機能できないとなると、情報の共有化は決してスムーズには進まない。
  デンマークではさらに、人口80〜200人に対して一人の割合でホームドクターといわれる地域医が存在する。ホームドクターにかかる自己負担はゼロで、健康面に関する日常的なアドバイザーの役割を果たしている。地域利用者の健康状態を最もよく把握している存在といえるだろう。
  このホームドクターは、介護チームが備えている連絡ノート(これは定型フォーマットがある)に医療に関する情報(健康状態と薬の副作用の関係など)を書き込み、看護職から処方せんの要求があれば速やかにファクスで送付する義務がある。ここでも異なる職種同士が対等の立場で、自分の役割をしっかり果たしており、日本のようにヒエラルキー(階層制度)に縛られる光景はみじんもないのだ。
  確かに「システムがそのようになっているから可能」という見方もあるだろう。だが、現場スタッフの意識改革を通じて、少しずつ変えていける点もある。次回は、この点について気付いたことを述べていこう。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.03.25
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