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解雇ルールを盛り込んだ労働基準法の改正案がまとまる
●改正労働基準法が閣議決定される
  政府は3月7日の閣議で、労働者の解雇ルールや有期雇用の期間延長などを盛り込んだ労働基準法の改正案を決定した。
  主な改正ポイントと、それぞれの問題点をまとめると次のようになる。
(1) パートなどの有期労働契約の期間延長(現行1年→3年。高度な専門知識を持つ者や60歳以上の者は3年→5年)
  有期労働契約の期間延長は、更新の手間を省くとともに、労働者の立場を安定させることを目的としている。
  しかし、企業が人件費削減を進めている現状では、正社員を有期労働契約社員と置き換えたり、新規学卒者の雇用についても3年の有期契約とする、いわゆる「若年定年制」が進むのではないかという懸念がある。いつ「雇い止め」になるか分からず、不安定な状態に置かれる労働者が増加することが予測される。
(2) 解雇ルールの明文化
  使用者が労働者を解雇する権利があることが明文化された。本来、労基法は労働者を保護することを目的としており、あえて使用者の解雇権が盛り込まれた点で大きなトピックといえる。
  法文を文言通りに受け取れば、「原則として使用者は労働者を解雇できる。ただし、正当な理由がない解雇は解雇権の乱用として無効とする」と読める。従来、裁判所では使用者はよほど正当な理由がなければ解雇できないという判断が下されていたが、今回の改正はその正反対の趣旨となる。これによって使用者に解雇権があることが印象付けられるとともに、大量の解雇者が生み出されるのではないかと労働者側は懸念している。
  厚生労働省は、労働者保護の姿勢が後退しないように現場の指導を徹底するという趣旨を表明しているが、実際の運用がどうなるかは不透明だ。
  なお、裁判所が解雇無効と判断した場合でも、労働者が仕事に復帰しにくいという事情をかんがみ、当事者間で金銭的解決ができるという条項は見送られた。もし将来これが明文化されれば、「金を払えば不当解雇をしても許される」と考える使用者が増えるだろう。
(3) ホワイトカラー向けの裁量労働制の対象範囲の拡大
  裁量労働制については、従来は企業の本社で働く一定の労働者についてしか認められなかったが、今回の法律案では支店・支社・営業所などに無制限に拡大されている。また、届け出要件の緩和などにより、企業での導入がしやすくなった。ホワイトカラーの残業代が経営を圧迫している企業が、積極的に導入をはかることが考えられる。
  同時に、長時間労働が常態化し、過労死を招くなど労働者の雇用環境悪化の恐れがある。
  以上のことから、全労連など労働者側は今回の閣議決定に強い反発を表明している。特に解雇ルールの法制化は、使用者・労働者双方にとって長年議論されてきた事項であり、政府が今後どのような着地点を見つけるのか注目される。
(社会保険労務士・CFP 本田 桂子)
2003.03.25
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