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損保構想「テロ基金」(資金プール)設立への難題
〜4月以降も「免責」は継続〜
  大手損害保険各社は、2002年4月の企業向け火災保険の契約から導入していたテロ被害についての免責を、4月以降も継続することを決定した。免責の対象となるのは、資産価値(保険金額)10億円以上のビル・倉庫、15億円以上の工場である。
  これまでテロなどの大規模リスクについては、再保険会社を利用してリスク分散を行ってきたが、9.11米国同時多発テロ以降、再保険会社がテロリスクを引き受けなくなっており、4月以降もその方針の継続が伝えられている。損保各社としては、一保険者でカバーすることが難しい大型リスクを避けたい意向があるのだ。
  マーケットの側面からも、日本の企業保険市場は成熟しているとはいえず、リスクカバーに対して相応の保険料を支払うという意識が低い。さらにマーケット自体が小さいため、損保各社の競争により保険料が低い水準に抑えられている状況下では、保険料の値上げも難しいといったことが免責継続の要因となっている。
  今回の損保各社の決定については、「生保とは異なり、事業会社、特に株式上場をしている損保各社がリスクを避けるための緊急措置としての継続は仕方がない」との見方もある。その結果としてか、免責継続が発表された翌日には、マーケットも敏感に反応し、リスク軽減の安心感から損保各社の株価が一時的に値上がりした。
  一方、「テロ免責」と対をなす取り組みが、損保各社による「テロ基金(企業向け火災保険の保険料の一部を基金とする)」設立の動きもある。
  しかし、日本損害保険協会は「テロプール検討PT」を立ち上げ、「テロ基金」設立に向けた検討を進めてきているが、いまだに設立の見通しは立っていない。
  米においては、テロリスクに対する危機意識の土壌があり、そのリスクをヘッジできないと投資行動が妨げられるといった切実な問題を抱えていることから、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカでは、公的支援が付いたテロリスク対応制度が整えられている。主要先進国の中で日本だけが同種の補償を提供できないとなれば、「国際的にみて経済基盤が整っていない」と捉えられても仕方がない。
  日本での「テロ基金」設立が足踏み状態である要因には、欧米と異なり、日本の企業側に切実な危機感が低いことが挙げられる。日本はこれまでテロといったものをほとんど経験してきておらず、損害規模も漠然としており、危機意識はかなり低いのではないか。「テロ基金」設立の検討について金融庁が「企業ニーズがあることが大前提」としているようで、イラク情勢や北朝鮮問題など日本を取り巻く環境が緊迫度を増してきている中、対応に遅れないことを期待する。
  一方、損保各社が踏み込んだ議論ができない理由に、テロが今後どの程度の頻度で発生するのか予測できないこと、それに加えて、テロが起こった場合の損害額の概算を予想できないので、結果として保険料も算出できないことが挙げられる。
  今後、テロに限らず、巨額な損害が一気に発生する戦乱、天災等、それに類似するコンピューター損害、環境損害等の事故などが予測される。そのため、再保険で分散しきれない場合に、何らかの補償手段を設ける議論をしていくことが課題となるだろう。
  企業が危機感や危機意識を持ち、声を上げれば、公的支援を含む補償制度の必要度はさらに高まるはずだ。
2003.03.25
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