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揺れ動く「特別養護老人ホーム」
〜民間参入、全面解禁へ!?〜
  今年2月に行われた政府の経済財政諮問会議は、総合規制改革会議が提出したアクションプラン(規制緩和の重点項目)の実現を正式に採択した。この項目の中に、かねてより懸案であった「特別養護老人ホームへの株式会社参入1」が含まれている。
  景気対策や外交面でのもたつきが目立つ小泉内閣だが、規制緩和については、後述の構造改革特区政策がすでに実行段階に入りつつあるなど、目覚ましい進み具合を見せている。
  医療・福祉面における規制緩和といえば、ここ1〜2年で大きな盛り上がりを見せているのが、病院や福祉施設における株式会社などの民間参入だ。厚生労働省としては、国民の生命や福祉にかかわる分野は安定的なサービス供給が不可欠であるとして、かたくなに株式会社の参入を拒んできた。
  しかし、医療はともかく、高齢者福祉に関しては、介護保険のスタートによって、すでに株式会社などの営利法人が参入を果たしている。もはや「サービスの公益性」の意味が薄れてしまったといっていい。
  すでにケアハウス2 に関しては、2001年に株式会社参入が解禁され、特別養護老人ホーム3 にも民間参入の波が訪れることは時間の問題とみられていた。
  だが、厚生労働省側の抵抗は意外に根強く、昨年7月に総合規制改革会議の中間とりまとめに添付された「厚生労働省側の意見」には、次のように述べられている。
  「株式会社は株主の利益の最大化を目的とする組織であり、例えば、身体的にも精神的にも弱い立場の入所者を〈寝かせきり〉にして、機械的で画一的な〈手抜き〉サービスにより人件費コストを削減し、利益を上げるおそれがある」(内閣府公表の資料より)
  この理屈を支えているのは、特別養護老人ホームは「在宅での介護が不可能な高齢者のためのついのすみか」という点にある。だが、介護保険がスタートしてから3年が経過しようとする間、受け皿となる在宅サービスの充実に実効性のあるビジョンを示してこなかった厚生労働省にとっては、この「意見」を苦しい言い訳といわれても仕方がないだろう。
  案の定、小泉内閣が発する規制緩和の大合唱にはあらがえない。まず、昨年10月、政府の構造改革特区推進本部は、特区申請の通った自治体に限り、特別養護老人ホームの施設運営に株式会社が参入することを認めた。そして、前述のアクションプランの採択。これらによって、全国規模での民間参入が2年以内という目標のもとで実施されることになるのだ。
  いわば「本丸」を突破された形の厚生労働省だが、宅老所4 などの小規模型中間施設を介護保険の対象にするというビジョンを発表するなど、施設偏重を緩和する受け皿づくりに躍起になっているといえる。地域重視の介護サービス拡充に対し、ようやく重い腰を上げることになったとすれば、今回の規制緩和は結構「薬」になっているのかもしれない。
1  特別養護老人ホームへの株式会社参入
  構造改革特区においては、以下の二つの方式による参入が認められている。全国規模の規制緩和においても、この方式が採択されるもようだ。
●公設民営方式 …… 自治体が設立した施設の管理・運営を、条例で定める基準に適合した民間団体に委託するという方式。
●PFI方式 …… 施設の建設から管理・運営までを、民間の資金や技術などを利用して行う方式。選定事業者は、都道府県の認可を受けることが必要。
2  ケアハウス
  介護利用型軽費老人ホーム。高齢のため独立して生活することが困難になった人が入所するマンションタイプの施設で、食事や入浴などのサービスが提供される。入居中に介護が必要になった場合は、介護保険によって居宅サービスを受けることができる。
3  特別養護老人ホーム
  要介護状態の高齢者が、何らかの理由で在宅で介護を受けることが困難になった時に入所できる。現在は、自治体および社会福祉法人のみが設立主体となっている(特区を除く)。
4  宅老所
  在宅で介護を受けることができない時に、一時的に預かったり、受け入れたりする小規模型の施設。民家などを改造して、大規模施設にはない家庭的な雰囲気の中で過ごすことができる。現在は介護保険の対象外。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中元)
2003.04.22
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