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株式市場に重圧となる厚生年金基金の「代行返上」
●「代行返上」で株式市場はどうなる?
  このところの株式市場では、わが国の代表的な企業年金である厚生年金基金の「代行返上」をめぐる動きが、相場の頭を押さえる悪材料として注目を集めている。
  厚生年金基金は、昭和41年から始まった企業年金制度で、企業とは別の法人格を持つ「基金」により運営されている。企業が任意で導入する「私的年金」でありながら、公的年金である厚生年金の給付の一部を国に代わって支給する点が大きな特徴となっている。この代行制度では、基金は企業独自の給付部分である「上乗せ部分」だけでなく、厚生年金の給付原資の運用も行うことになり、運用面のスケールメリットが期待できる点が魅力とされていた。
  しかし、近年の運用環境の悪化によって積立不足が発生し、企業が掛け金の追加拠出を余儀なくされるなど、企業の負担感の増加が顕著になっていた。
●厚生年金基金の代行返上とは
  平成14年4月に施行された「確定給付企業年金法」により、厚生年金基金は、代行部分のない新たな制度である確定給付企業年金(基金型または規約型)へ移行できることとなった。これが、いわゆる代行返上である。
  平成15年4月1日現在で代行返上の認可を受けた基金は、全1,653基金の約3割に当たる491基金にも及んでいる。代行返上は、(1)将来に向かっての代行停止、(2)過去期間分の積立金の国への返還、の2段階で行われ、前者は既に実施済みであるものの、後者は今年10月以降となっている。
●厳しすぎる「物納」の条件
  問題となっているのが、この過去分の積立金の返還である。過去分の積立金は、現金での返還を原則とするものの、例外的に株式等の有価証券を「物納」することも認められている。しかし、その条件(下表参照)が厳しすぎるため、多くの基金が積立金の運用対象として組み入れられていた株式を換金売りすることが見込まれている。
  株式市場では、これによる需給悪化を懸念し、相場の頭を押さえる悪材料と捉えられているわけである。
  市場関係者からは、物納条件の緩和を求める声が上がっているが、当局は公的年金資産の質を確保するという観点から、今のところ緩和に応じる構えは見せていない。
  もっとも、換金売りが出ても、逆に返還された積立金による公的資金の買いも予想され、実際の需給悪化は一時的なものとなる可能性はある。しかし、ただでさえ、株式市場では悪材料がめじろ押しであるだけに、今後、条件緩和へ向けた動きがあるのかどうかが注目される。
【物納の要件】
<国内株式>
指数 TOPIX (配当込み) に連動するよう構成されていること。
銘柄 東京証券取引所第一部上場銘柄
  • 受渡日において(株)証券保管振替機構において移換が行えること
構成銘柄数 TOPIXの構成銘柄の90%以上であること。
銘柄ごと数量 各銘柄ごとに単元株で構成されていること。
指数連動性 推定トラッキングエラーが0.2%以下であること。
物納資産額 物納資産の合計額が最低責任準備金の額を下回っていること。
<国内債券>
指数 NOMURA-BPIに連動するよう構成されていること。
銘柄 指数組み入れ銘柄
  • 事業債、円建外債は、A格以上であること。
  • 金融債は、BBB格以上であること。
  • 国債以外の債券にあっては、(株)債券決済ネットワーク利用銘柄であること。
  • 受渡日において振替または移転登録が行えること。
指数連動性
  • 推定トラッキングエラーが0.2%以下であること。
  • 修正デュレーションは指標からの乖離が±2%以下であること。
  • 国債、地方債および政府保証債を合わせたものの構成割合の指標からの乖離が±1%以内であること。
  • 残存年限構成の割合が次の区分に応じて指標からの乖離が±1%以内であること。

    短期:1年以上3年未満
    中期:3年以上7年未満
    長期:7年以上
物納資産額 物納資産の合計額が最低責任準備金の額を下回っていること。
<複数基金による共同物納>
  保有資産が中小規模の厚生年金基金においても物納が行えるよう、複数の厚生年金基金が共同して物納できることとする。
参考:厚生労働省「第16回社会保障審議会年金資金運用分科会資料」
2003.04.29
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