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介護報酬改定から1カ月
〜懸念されていた混乱が一気に表面化〜
●職員への厳しい時給操作が起こっている
  介護保険のサービス単価(報酬額)が改定されて1カ月が経過した。介護現場では、早くもさまざまな混乱が巻き起こっている。今後も拡大が懸念される問題点をいくつか取り上げてみよう。
  在宅サービスの一番の混乱は、やはり訪問介護、中でも身体介護の算定方法にある。1時間以上にわたる身体介護の場合、1時間30分までは改定前後で単価に変化はない。問題は1時間30分以上にわたって身体介護を提供した場合、そこから先は生活援助(以前の家事援助にあたる)の加算と同じになってしまうということだ。
  事業者としては、新たに長時間の身体介護契約を結ぶことに対し、明らかに腰が引けた状態になっている。だが、従来から長時間身体介護を提供している利用者に対して、「報酬単価が下がったから契約内容を変更してくれ」と言うわけにはいかない。
  そこで起こり始めているのが、ヘルパーの時給操作だ。つまり、1時間30分以上の身体介護の部分を、生活援助と同じ時給にしてしまうのだ。このことを労働者であるヘルパーへと一方的に通告するから、混乱が生じる。労使交渉のないまま、いきなり賃下げを行ってしまうのと同じことだ。これが他業界であれば、大変な騒ぎになる。
  事実、ヘルパー労組の中には「ストライキも辞さない」とする声も出始めた。介護サービスは生活支援の一環とはいえ、明日からヘルパーが来ないとなれば利用者の命にかかわるケースも少なくない。恐らく介護現場は大パニックに陥るのではないだろうか。
  在宅サービスの混乱に輪をかけているのが、介護タクシーにかかわる問題だ。従来、身体介護の単価でサービスを提供していたものが、「適正化」の名目で大幅な単価減となった。多くの事業者は撤退を余儀なくされるか、タクシー料金を別途徴収する動きを見せ始めている。いずれにせよ、通院などの足が限られている利用者にとっては、これも死活問題になる。
●現場の実態把握を進めよ
  極め付けは施設サービスの大幅な単価ダウンだ。ただでさえ低賃金と長時間の重労働が問題になっている職場において、現場のケアワーカーのストレスは限界に達している。先日も、事故報告書の記載に際して、施設側から「現場のケアワーカーにすべて責任があるように書き直せ」と強要されたという話を聞いた。いじめともいえる施設内の構図により、リストラを敢行しようとするケースが増えている。
  すでに常勤職員を解雇し、雇用調整のしやすい非常勤職員への切り替えを進める施設が数多く出ている。非常勤では当然生計が成り立たないため、「一生食べていける仕事」を求める志ある若者が、介護業界から逃げ出している傾向も見受けられる。
  もはや日本の介護現場は、崩壊の一歩手前に来ているのは間違いない。平成17年に介護保険制度自体が見直されるが、抜本的な改革を進めるのであれば、政府はすぐに現場の実態把握を開始すべきであろう。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.05.06
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