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SARSの影響を受けた企業に助成金の特例措置を実施
● 東アジアを中心にSARS感染者数の拡大が続く
  WHO(世界保健機関)の発表によると、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染者数は5月20日現在で7,919人、死者は662人に達した。内訳は中国5,248人、香港1,718人、台湾383人と、東アジアが上位を占めている。今月に入り、患者数は1日あたり60人から200人程度のペースで増加しており、終息の気配は見えない。
  日本ではまだ感染者が確認されていないが、台湾人の感染者が日本国内を旅行したことが判明し、現地での不安が高まっている。二次感染の恐れは少ないとされるが、今後国内での感染予防対策が大きな課題となるだろう。
● 海外旅行、輸出事業などに深刻なダメージ
  SARS感染の広がりは、近年、中国を中心にアジアとの結びつきを深めている日本経済にも打撃を与えている。海外旅行客の激減をはじめ、現地工場の閉鎖、商談の延期、輸出入の減少など、その影響は甚大だ。
  住友生命総合研究所の調査によると、SARS終息までの期間を6カ月(2003年4〜9月)と想定した場合、海外旅行支出は3,580億円、アジア地域への輸出額は2,880億円減少し、日本のGDP(国内総生産)は0.07ポイント引き下げられる見込みだという。実質ゼロ成長の日本経済は、SARSによってさらに見通しが暗くなってきたといえる。
  特に、長引く不況で体力を消耗している中小企業へのダメージは大きい。政府系金融機関である国民生活金融公庫には、中国工場での生産がストップして仕入れが止まり、資金繰りが悪化した輸入販売会社や、アジアを中心に展開している旅行会社など、倒産の危機にひんしている中小企業から資金繰りの相談が多数寄せられているという。公庫では全国152支店にSARS対応の特別窓口を設置して、企業の資金調達の相談に応えている。
  また、政府は今後、BSE(牛海綿状脳症)による風評被害対策で設けた特別貸付制度(前年同月比で10%以上売り上げが減少するなどしたホテルや飲食店に公庫を通じて1%台で貸し付け)を、SARS対策にも活用することを検討している。
● 休業や出向に対して雇用調整助成金の特例措置を実施
  厚生労働省は5月14日、SARSによる経済的影響を受けた企業に対して支援を行うために、雇用調整助成金の特例措置を設けることを発表した。
  対象となるのは、中国や台湾など勧告地域に対して人の移動を行っており、平成14年度の当該地域への売上高が全売上高の15%以上であるなど、一定条件を満たす事業主。事業活動の縮小により休業や出向を余儀なくされた場合に、休業手当の2分の1(中小企業は3分の2)を支給する。また、従業員の教育訓練を行う場合は訓練費として1人1日1,200円が支給される。対象期間は平成15年5月15日から11月14日までの半年間で、助成金を受けるには事前(2週間前まで)にハローワークに届け出をする必要がある。
  政府は、SARS感染の拡大は半年程度で終息すると予測しているようだが、BSE(牛海綿状脳症)においては騒動が落ち着いてからも牛肉の需要が伸び悩んだことを考えると、先行きは楽観できない。企業は今後、現地工場の分散などのリスク管理対策とともに、特定地域に依存した事業構造の見直しを迫られることになるだろう。
参考:厚生労働省「雇用調整助成金の特例措置について」
(社会保険労務士・CFP  本田桂子)
2003.05.27
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