>  今週のトピックス >  No.629
介護保険制度見直しがスタート
〜焦点は、在宅サービスの質にあり〜
● 65歳以上の介護保険料は、平均3,293円
  介護保険は3年ごとに報酬が改定され、5年ごとに制度の見直しが行われる。この4月、スタートから3年目の報酬改定が行われ、次はいよいよ平成17年4月に向けた制度見直しにスポットが当てられることになる。
  5月26日、報酬改定後としては初めての社会保障審議会・介護給付費分科会が開催された。この日、最も大きなトピックは、報酬改定と同時に見直された第一号保険料(65歳以上が支払う保険料)が明らかになったことである。
  介護保険の第一号保険料は、保険者である市区町村ごとに決められる。各地域の介護サービスにどれくらいの費用がかかるかという目標値がベースとなるため、新たな報酬額(サービス単価)が決まった段階で各地域の保険料が明らかになるというわけだ。
  数字は極めてショッキングなものだった。新たな第一号保険料の全国平均は3,293円。これは昨年までの2,911円から13.1%という大幅な伸びを記録したことになる。
  昨年6月に厚生労働省が調査した段階では、全国平均は3,241円で、11.3%の伸びが見込まれていた。この後に介護報酬の改定額が決定されたわけだが、全体でマイナス2.3%まで抑制されている。つまり、介護報酬のマイナス改定を折り込めば、最終的には11.3%よりも伸びは少ないとみられていたのである。
  ところが蓋を開けてみると、被保険者の負担はさらに重くなった。原因はいろいろ推察できるが、その一つは自治体が目標としたサービス量の中身が、施設から在宅へとシフトされつつあるということだ。
  改定された介護報酬額は、全体でこそ2.3%のマイナスだが、在宅サービスに限ってみれば0.1%の増加。つまり、施設から在宅へとシフトした分だけ保険料が上がったという見方ができる。初期コストがかかり、介護保険財政を圧迫するといわれる施設建設から、自治体が脱却しつつある。こう見ると、今回の保険料アップは「施設から在宅へ」が進んでいる証のようにも受け取れる。しかし、状況は簡単に割り切れるものではない。
●国民負担増に見合うだけの介護サービスが行われているか?
  分科会では、厚生労働省側から「サービス供給量・利用量ともに施設の伸びが抑制され、在宅が急速に伸びている」旨を示す資料が、これでもかというくらい提示された。出席委員からは、こんな質問が出されていた。
  「施設に入りたいけど入れない、つまり入所待機者のデータがない。在宅サービスが増えているのは、施設入所待ちの間、在宅サービスで"我慢している"だけではないのか」
   この発言に、いま日本の介護保険制度が抱える問題が凝縮されていると言っていい。在宅サービスの頭数だけ増やしても、それが国民負担の増加に見合うだけの「質」を確保しているのかどうか。この点が解明されなければ、形だけの「施設から在宅へ」を無条件で歓迎するわけにはいかない。
  施設サービス側の第三者評価はようやく進み始めたが、在宅サービスで主流を占める訪問系サービスは、場所が利用者宅という「密室」であるためになかなか評価しにくい。
  折しも介護給付費分科会の翌日、制度そのものの見直しを目的とする「社会保障審議会・介護保険部会」が創設された。恐らく「サービスの質をいかに担保するか」が大きな議論の的になると思われ、今後注目する必要があるだろう。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.06.03
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