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政府税調中期答申『少子・高齢社会における税制のあり方』にみる税制改正の方向性
● 将来の日本を支える税制のあり方を提案
  政府税制調査会は、6月17日、税制改革の中期答申『少子・高齢社会における税制のあり方』を公表した。「少子・高齢化と税制」という論点の中で、「高齢者に対する課税の見直し」「消費税率の引き上げ」「相続税・贈与税の課税ベースの拡大」などが盛り込まれており、今後の税制改正の方向性をうかがうことができる。
  政府税制調査会は、昨年6月に『あるべき税制の構築に向けた基本方針』をとりまとめ、中長期的視点から、持続的な経済社会の活性化を実現するための、わが国税制のあるべき姿の全体像を示した。そして今回、この「基本方針」の内容をさらに深め、国と地方の両者一体で中長期的視点に立ったわが国税制のあり方について提案を行うものとして、『少子・高齢社会における税制のあり方』を公表した。
  「少子・高齢化と税制」「地方分権と税制」「その他の課題(金融・証券税制、納税環境整備、環境問題への対応、国際課税、不良債権処理と税制)」と、内容は多岐にわたっている。このうち「少子・高齢化と税制」という論点の中で、少子・高齢社会を支える税制は、
(1)
将来にわたる安心をもたらす税制
(2)
若者から高齢者までがともに支える税制
(3)
個人や企業の活力を引き出す税制
という三つの視点に基づき、改革に取り組んでいく必要があるとしている。
  これを受け、個別税目の改革に対する考え方として、個人所得課税、消費税、法人課税、相続税・贈与税のそれぞれについて、基本的考え方と今後の課題という形でまとめられており、以下がそのポイントとなる。
【「少子・高齢化と税制」におけるポイント】
個人所得課税
年金課税等の見直し
 
公的年金収入を課税ベースに取り込み、担税力のある高齢者に現役世代と同じように、能力に応じた負担を適切に求めていくことは、高齢者間のみならず世代間の公平にも資する
給与課税等の見直し
 
給与所得者にも確定申告して経費を実額控除する機会を増加させることが適当
人的控除の基本構造の見直し
 
子育て世帯への配慮
個人住民税を地方税の基幹税とするための見直し
消費税
財政の持続可能性の確保や社会保障支出の増大を支えるために極めて重要な税であり、今後、国民の理解を得つつ、税率を引き上げ、その役割を一層高めていくことが必要
法人課税
法人税率の引き下げについては、経済状況、わが国の税負担の水準や税体系全体のあり方との関連、さらには先進国との税率のバランスを踏まえて、今後検討すべき課題
相続税・贈与税
従来より広い範囲に適切な税負担を求めるための課税ベースの拡大
● 来年度以降の税制改正の動向に注目せよ
  さらに補足をすると、(これは具体的に明記されているわけではないが)相続税については、早くも来年度の改正案として話題になっているものがある。それは、相続税の基礎控除額を引き下げるというものだ。
  現在は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」で計算されているが、これが見直され、一説によれば2割程度引き下げられるともいわれている。現在の「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」という基礎控除額は平成6年に見直されたもので、バブル時代の経済情勢を反映したものだ。そのため見直しの必要あり、ということのようだが、実はこの件については、今年度の税制改正でも検討されたが見送られたという経緯がある。
【相続税の基礎控除額の見直し】
年  度
基礎控除額
昭和50年
2,000万円+400万円×法定相続人の数
昭和63年
4,000万円+800万円×法定相続人の数
平成 4年
4,800万円+950万円×法定相続人の数
平成 6年
5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
  政府税制調査会が取りまとめた『少子・高齢社会における税制のあり方』における論点は、現段階での方向性であり、改正として確定したものではないが、何事にも先手をうつためには情報収集に努め、その動きを絶えず追っていくことが大切である。
  特に相続税に関しては、今年度の税制改正で「相続時精算課税制度」なるものが創設され、かなりの波紋を呼んでいる。そして来年度は、基礎控除額が見直され引き下げられる可能性が高い。もちろん改正はこれだけというわけではないが、税制改正の動向からは目が離せない。
2003.06.23
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