>  今週のトピックス >  No.653
在宅介護支援センター本来の役割
〜地域福祉は「介護保険」だけでカバーし切れるのか〜
● 在宅介護支援センターの存在意義が問われている
  日本のどこに住んでも、その地域には必ず「在宅介護支援センター」というものがある。市町村自らが運営するものもあれば、行政からの委託を受けて社会福祉法人や医療法人など民間団体が運営するものもあり、その母体はバラエティーに富んでいる。
  介護保険制度がスタートする前の在宅介護支援センターは、在宅におけるケアマネジメントを一手に引き受け、地域における「介護よろず相談所」という役割を担っていた。ところが、介護保険のスタート以降、いわゆるケアマネジメントの部分に関しては、民間の居宅介護支援事業者が手がけることになった。そこで、在宅介護支援センターの存在意義はどうなるのかが、大きなテーマとして浮上してきたわけである。
  在宅介護支援センター自体も、その多くは居宅介護支援事業を兼務しており、職員もケアマネジャーを兼任するというセンターが目立っている。こうした現況を受けて、在宅介護支援センターへの委託費を一般財源化する流れが強まっており、厚生労働省の役人からは「在宅介護支援センター不要論」が公然と語られるようになってきた。
● 本当に必要なものを提供できる在宅介護支援センターに
  そんな中、ここ1〜2年、在宅介護支援センター側から「本来のセンターの役割を見直そう」という動きが見られ始めている。例えば、ある地域ではセンターの職員がケアマネジャーとの兼任を行わず、介護予防教室を主催したり、介護保険の認定漏れをした人の支援に回るなど、センター本来の業務に専任する光景が見られる。
  中でも介護予防事業というのは、いまや日本の厚生行政の中でも一大トピックとして注目されている。ご存じの通り、介護保険制度では要介護認定のランクが6段階に分けられ、要介護度1よりも軽いランクに「要支援」が設けられている。このランクへの給付は、「介護予防給付」と呼ばれているのだが、そもそも「介護予防」とは何なのかというコンセプトがあやふやである。そのため、一般の人にとっては「要介護1の前段階」とか「施設に入れないが、給付は受けられる段階」という程度の認識にとどまっているといっていい。(こうした現状を受けて、今月開催された厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会では、「要支援」不要論も飛び出した)
  多くの在宅介護支援センターが行っている介護予防教室は、とにかくすべての住民に呼びかけ、地域の公民館などを利用しながら、「転倒予防のための体操や運動」「健康を維持するための食生活講座」などを積極的に展開している。地域レベルのこうした地道な活動が、介護予防に対する住民意識を高めるために大きな役割を果たしているわけだ。
  今後、高齢化率の上昇とともに、介護保険財政が悪化の一途をたどることは目に見えている。それをカバーするために、厚生労働省も「介護予防事業」に施策の重点を移さざるをえない。そんな中で、在宅介護支援センター不要論や委託費の一般財源化を軽々と打ち出していいものなのか。はからずも「三位一体改革」などという地方財政の見直し論議が強まっている昨今、地域住民にとって本当に必要なものは何かを具体的にピックアップする時期に来ているといえるだろう。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中元)
2003.07.14
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