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「高齢者リハビリテーション研究会」始まる
〜病院・施設偏重から抜け出すカギとなるか〜
● 閉ざされたリハビリから社会参加型のリハビリへ
  介護保険制度の抜本的見直しを2005年に控えたいま、厚生労働省内では高齢者介護をテーマにしたさまざまな研究会が立ち上がっている。6月26日に研究会報告の出された「高齢者介護研究会」を皮切りに、7月10日には「高齢者リハビリテーション研究会」の第一回会合がもたれた。当日、研究会を傍聴することができたのでその報告をしたい。
  二つの研究会はいずれも厚生労働省老健局長の私的研究会であり、いわば、これからの介護施策の方向性にかかわってくるものである。事実、今回の研究会を傍聴してみると、国がどのようなビジョンを描いているかが見えてきた。
  私たちが「リハビリテーション」と聞いて、まず連想するのはどんな光景だろうか。恐らく大半の日本人は、施設内の無機質なリハビリルームで、汗をかきながら必死に歩行訓練などをする姿を思い浮かべるのではないだろうか。そこにあるのは、気味悪いほど画一化され、地域における生活からかけ離れた光景であり、実際、日本ではその光景こそが「リハビリのあり方」を示してきた。
● 在宅復帰を促すシステムが求められる
  今回の研究会では、古いリハビリイメージを払拭する現場報告がなされている。
  まず、脳卒中などの発症から、急性期・回復期・維持期といった時間経過の中で、各時期にふさわしいプログラムを提供するという仕組み。要するに、病院から地域生活への復帰という目標に近づけるため、段階的に「社会参加」というビジョンをプログラムの中に組み込んでいこうというものである。
  在宅ケアが進んでいるデンマークなどでは当たり前の発想だが、日本では、いったん脳卒中などを発症すると、生活の基盤は病院や施設という閉ざされた空間に移ってしまいがちだ。その結果が、前述した画一化されたリハビリイメージに結びつく。
  例えば、在宅に戻れば、自分で買い物に行き、自宅のキッチンで調理をし、洗濯をし、アイロンがけをする。近所の公園を散歩したり、そこで絵を描くことが日常という人もいるだろう。ならば、その人の生き方や趣味を想定して、社会参加を促す「現場に則した」プログラムが求められる。
  入院期間中でも、病院から出て買い物に行くという道程の中で訓練を行う必要があるかもしれない。家のキッチンを想定した環境で、自ら食事を作ってみるというプログラムを立てるケースも出てくるだろう。
  日本では、こうした社会参加のためのリハビリが軽視され、それが介護保険においても「施設偏重」という流れを作り出す一因になっている。「施設から在宅へ」という流れを強調する厚生労働省が、ようやく今回のような研究に目を向け始めたことは評価できるだろう。
  だが、現実を見ると、新しいリハビリの考え方を支える仕組みは、目を覆うほど貧弱だ。在宅ケアを支えるケアマネジャーやホームヘルパーの中には、リハビリのことをほとんど知らない者も多く、リハビリスタッフとの連携などはほとんどとられていない。訪問リハビリという資源は絶対的に不足しており、病院や施設では「在宅復帰を想定した仕組み」など皆無に等しい。研究会を催すと同時に「スムーズな在宅復帰を促すための、介護サービス評価の仕組み」を早急に築いていくことが求められる。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中元)
2003.07.28
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