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厳しい財政状況が相次ぎ明らかになった公的年金
●厚生年金の収支が史上初の赤字に
  6月12日、厚生労働省が社会保障審議会年金数理部会へ提出した資料の中で、2001年度の公的年金の財政状況が明らかになった。これによると、厚生年金の場合、保険料等の収入総額から給付等の支出総額を差し引いた収支がマイナス6,999億円と、現在の制度が発足した1954年以来初のマイナスとなった。
  この原因として、不況による保険料収入の落ち込みに加え、株式市場の低迷による積立金の運用の悪化が挙げられている。
【厚生年金の収支残の推移】
1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度
7兆2,910億円 5兆801億円 3兆9,482億円 2兆779億円 ▲6,999億円
●国民年金未納率が過去最悪の37.2%に
  7月24日、社会保険庁が社会保障審議会年金部会へ提出した資料の中で、2002年度の国民年金保険料の未納率が過去最悪の37.2%、未納額は約1兆円に上ることが明らかになった。未加入者も含めると、未納率は約4割に達し、「国民年金の空洞化」が深刻となっている。
  今回の結果は、過去最悪を記録した2001年度と比較しても、8.1ポイントの大幅な悪化となった。
  この原因として、厚生労働省は、
(1)  2001年度から保険料徴収事務が市町村から国へ移管されたこと
(2)  保険料の免除基準を厳しくしたこと
(3)  長引く不況の影響
などを挙げており、厚生労働大臣を本部長とする特別対策本部を設置するとしている。対策本部では、今後5年間で収納率を80%に上げることを目標として、免除制度の見直しや保険料の強制徴収の実施に向けた法整備などを検討することにしている。
【国民年金未納率の推移】
1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度
23.4% 25.5% 27.0% 29.1% 37.2%
●迷走する次期年金制度改正の行方
  このように、公的年金に対する不信感に拍車をかける厳しい数字が相次いで発表される中で、2004年度に予定される次期年金制度改正をめぐって、各方面からさまざまな意見が出され百家争鳴の状況になっている。
  厚生労働省は、保険料を固定した上で給付を自動的に調整するいわゆる「スウェーデン方式」を落としどころとしたい意向とされる。この方式は、楽観的な将来見通しの下で保険料の値上げと将来の給付削減の繰り返しが不信感を招いてきたこれまでの経緯からすると、一定の評価は可能だが、世代間の不公平は解消しないとされている。一方、これまでタブーとされてきた年金受給者の給付削減も含めて「聖域」に踏み込んだ大胆な見直しが必要との声も大きくなっている。
  また、国庫負担率の引き上げは、とりわけ国民年金の未納問題解説の切り札となりうるが、この財源として豊かな高齢者への課税強化を挙げる意見もある。いずれにせよ、今度の年金制度改正では、従来の小手先の改革ではなく、聖域を排除した大胆な改革が求められるだろう。
2003.08.04
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