>  今週のトピックス >  No.670
医療行為はどこまで特許の対象になるか?
〜厚生族と産業界に対立の火種〜
● アメリカでは「医療関連行為」は知的財産
  日本が国際的な競争力を維持していく上で、知的財産をいかに保護するかが大きなテーマとなっている。昨年3月、内閣府に知的財産戦略会議が設置され、知的財産基本法の骨子が打ち出された。同法案は昨年秋の臨時国会に提出され、11月27日に成立している。
  同法では、個々の知的財産の取り扱いについて、新たに設置された知的財産戦略本部の中で、推進計画を作成するとした。中でも大きな懸案の一つとして取り上げられているのが、「医療関連行為の特許保護のあり方」である。
  日本においては、医薬品や医療機器については特許保護の対象となっている。だが、医療行為に関しては保護の範囲外だ。
  昨今、再生医療や遺伝子関連技術などの分野は、世界各国で飛躍的な進歩を遂げている。実は、単純に皮膚や細胞を培養する限りにおいては、医師免許を持たない者でも許されている。つまり、「医療関連行為の範囲外」として特許の対象となり得るわけだ。
  ところが、培養した皮膚・細胞を再生医療や遺伝子治療に使おうとする段階で、これは「医療関連行為」となり、特許権が付与されなくなる。日本経済全体が閉塞状況に陥っている中、「新しい産業の育成をうながす上でも、医療関連行為を特許の対象にすべきだ」という声が産業界から強く上がっている。
  ちなみに、医療先進国であるアメリカでは、すでに「医療関連行為」は知的財産として特許の対象とされている。知的財産権に関していかに意欲旺盛であるかはいうまでもない。産業界が懸念しているのは、わが国が知的財産の保護に手をこまねいているうちに、独自に開発された最先端技術の特許が、どんどんアメリカに吸収されてしまうという点だ。これは国際競争力の低下を招く大きな要因になりかねない。
● 自由な治療を進め、現場の混乱を防ぐためにも議論が必要
  こうした懸念を受けて、知的財産戦略本部では「医療関連行為の特許保護のあり方に関する専門調査会」が立ち上がった。一方、経済産業省内でも、知的財産政策部会において「医療行為ワーキンググループ」が開催され、今年4月に報告書案がまとめられている。
  これらの会合で常に論点として上がっているのが、「医療行為に特許を認めてしまうと、患者への治療行為が自由にできなくなるのではないか」「特許イコール〈安全へのお墨付き〉と誤解される可能性があり、医療現場に混乱をもたらすのではないか」という点だ。
  前者については、アメリカでも「現場の治療行為は特許侵害に当たらない」という見解を示しているが、「この辺りを現場に周知徹底できるのか」ということが課題となる。また、後者については、日本医師会や厚生労働省などが懸念を表明している問題であり、医師会としてはこれを論拠として「医療行為全般を特許とする方向には反対」の姿勢を示している。
  結局、ワーキンググループの報告書では、「再生医療や遺伝子治療などの先端医療技術のみ」を特許の対象にする方向でまとまった。「特許対象を医療行為全般に広げることは反対」とする日本医師会や厚生労働省の主張がほぼ盛り込まれたことになる。だが、産業界では依然として「対象を医療行為全般に広げなければ、新産業の育成は進まない」という声が強く、厚生族と経済産業族の対立という火種がくすぶり続けている。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中元)
2003.08.11
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