>  今週のトピックス >  No.694
停滞する「介護保険制度改正」議論
〜いま最大の論点は、給付増の犯人探し!?〜
●  国民負担増で介護保険制度改正の議論が停滞
  2005年度に介護保険制度の抜本的改正が予定されているが、その骨格作りになかなかエンジンがかからない。議論が停滞している背景には、制度開始からの3年で介護給付費が900億円近くも伸びてしまった現実がある。伸び率にして30%を優に超えている。
  このまま行くと、介護保険料は年率11%、2005年には30%近くも伸びるという試算が出された。現状でこの伸び率だとすれば、2015年、いわゆる団塊世代が一斉に第一号被保険者となったときに、想像を絶する国民負担が待ち構えていることになる。
  医療保険にしろ国民年金にしろ、負担ばかりが増えて給付の方は合理化や適正化というナタが振るわれている。その上、介護保険料が急伸するとなれば、国民の生活設計は破たんしかねない。いきおい、制度改正の議論が慎重になってしまうのもうなずける。
  2005年介護保険制度改正の大きなポイントの一つとして挙げられているのが、現行の介護保険制度の対象に若年障害者を合流させ、20代から保険料を徴収しようという議論である。
  一見、保険料負担を20代まで下げることにより、一人当たりの国民負担が軽減されるイメージがある。ところが、20代の失業者や正業につかないフリーター層が急増している現実を見ると、結局、その親の世代が二重に保険料を負担せざるを得ない。これは、明るい兆しが見え始めた日本経済を再び下降させるには、十分な要因といえるだろう。
●  少しでも早い、ベストな「介護」の提示が求められている
  9月12日に第四回の介護保険部会を傍聴したが、議論の方向は「給付増を招いている犯人探し」に傾きつつあるのが現状だ。
  前回の部会では、「要支援判定(要介護1よりも軽い判定)を受けた人の約49%が、2年後には要介護度が重くなっている」というショッキングなデータが出された。要支援の給付といえば、建前上は「介護予防給付」。つまり、給付自体がその目的を果たしていないという現実が明らかになったわけだ。
  このデータを受けて、今回の部会でやり玉に上がったのがケアマネジメントの質、ひいてはケアマネジャーの質である。2003年の介護報酬改定で、ケアマネジメント(居宅介護支援)の報酬は、要支援者を対象にした場合に限れば200単位もアップした。それだけ上げたのだから、「もっとしっかりやれ」という空気が何となく渦巻いている。
  もちろん、全体の報酬額をかんがみれば、いまだに「ケアマネジャー一人当たり、月60〜70件のケアプランを作成しなくては割に合わない」(部会で報告された現場の声)という実態がある。ケアマネジャーの残業時間が月100時間超えるケースもざらに見られ、そのような中でケアマネジメントの質だけを俎上に乗せても、抜本的な解決には程遠い。
  いま必要なのは「犯人探し」ではなく、何がベストな「介護」なのかをきちんと取りまとめ、それを選択するためにはどれくらいの負担が必要なのかを国民に説明する仕組みではないか。現在、厚生労働省内で議論されている小規模多機能型施設や、地域リハビリシステムなど、その選択肢を少しでも早く国民に示すべきだろう。官僚独特の「形がまとまってから」という密室的な政策過程では、現場の混乱と不安を増やすだけで、何ら不安解消には至らない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.09.22
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