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USドルの相場動向とUSドル投資の留意点
●  高金利時代とは異なる金融商品アドバイスが必要
  今回は、最近新聞紙上をにぎわせているUSドルの動向と資産運用への影響を考えてみよう。
  まず次の表で、1998年10月から今年9月末までの約5年間におけるUSドルの為替レートと、USドル預金やUSドルMMFの金利に影響を与えるFFレートの推移を見てみる。
【1998年10月〜2003年9月のUSドルとFFレートの動向】
【1998年10月〜2003年9月のUSドルとFFレートの動向】
FFレート:正式名称はフェデラル・ファンド・レート。FOMC(連邦公開市場委員会)で決定する短期の指標金利。
  USドル為替レートにおいて、1998年10月からの5年間の傾向を見ると、1998年10月から1999年12月末までが円高トレンド、その後2002年3月末までが円安トレンド、そして2002年4月から2003年9月までが再び円高トレンドの傾向があることが分かる。
  一方、FFレートは、2000年6月の7.125%から一貫して低下しており、現在は1%まで低下している。また、直近のFOMCのスタンスは米国景気の回復が本格化するまでは金融支援策として、当面1%を維持しそうな様子である。
  短期の指標金利であるFFレートが1%である場合、その金利が基準となるUSドル預金やUSドルMMFの金利は、通常1%以下となる。ちなみに2003年9月30日現在の1年ものUS定期預金は、銀行により若干の誤差はあるものの通常約0.1%台〜0.3%台、USドルMMFは0.3%台〜0.5%台となっている。
  高金利ということで個人投資家の人気を集めてきたUSドル商品が、一転して低金利商品となりつつある中で、これらの金融商品へのアドバイスは、高金利時代と若干異なるものが必要といえるだろう。
●  「分散投資」をアドバイスに加えよ
  例えば、外貨投資で投資家が最も心配することの一つに円高進行がある。円高進行により元本割れが起こったときのアドバイスについて考えてみよう。
  最近5年間において、110円台を突破するほどの円高が急速に進行したのは、上記グラフの(1)のゾーン以降である。このときの投資家へのアドバイスの主流は、「外貨投資は日本の預金よりかなりの高金利となっているので、長期保有を行うことで多少の円高を吸収することが可能ですよ」というものであった。
  このアドバイスが有効に機能した大きな要因は、(1)のゾーン以降で円高進行とFFレート上昇が同時に起こったことにある。FFレートが上昇すれば、それに伴ってUSドル預金やUSドルMMFの金利上昇が起こり、その結果、円高による損失を高金利による利息でカバーすることが可能になるのである。
  税引き後金利が6%・4%・2%・0.4%のUSドル定期(1年定期)で10年間運用したときの損益分岐為替レート(下図)で比較すると、そのアドバイスがある意味で的を得たアドバイスであったことが分かる。
【金利・運用期間ごとの損益分岐為替レート】
金  利
投資時為替レート
運用期間
損益分岐為替レート
運用期間
損益分岐為替レート
0.4%
110円
5年
107円82銭
10年
105円69銭
2.0%
99円63銭
90円23銭
4.0%
90円41銭
74円31銭
6.0%
82円19銭
62円42銭
上記は計算を簡易にするため、為替交換時の手数料は考慮していません。
損益分岐為替レートは、このレート以上の円高が進行しなければ元本割れを起こさないレートを表しています。
  しかし、(2)のゾーンのように、アメリカが低金利時代に突入している現在では、5年・10年と長期で運用しても、少々円高が進行しただけ元本割れを起こしてしまうことになる。つまり、(1)のゾーンで主流であった「長期投資で円高をカバーする」というアドバイスが通用しなくなっているのである。
  このような環境の中で、USドル投資のアドバイスの主流は、もっとも基本的な投資手法でもある「購入時期の分散」「投資通貨の分散」という二つの「分散投資」を「長期投資」というアドバイスに加えていくことであろう。
  購入回数を複数に分散する「購入時期の分散」は、購入平均為替レートの引き下げ効果が期待できる。その結果、為替が円高に進行した場合に、購入時期を分散させない場合よりも元本割れを抑えることも可能になるといえよう。
  また、通貨を分散することは、USドルだけの円高円安だけで影響を受ける資産構成から、USドル以外の通貨の為替変動に影響を分散させることが可能となる。その際、分散対象となる通貨の代表格はまずユーロであろう。幸い最近ではユーロ定期やユーロMMFに加え、ユーロ建て年金なども発売されているので、手軽に通貨分散が可能となっている。
  個人の外貨預金・外貨MMFそして外国債券投資は、今後もある程度の人気を維持する可能性が高い。しかし、昨今のように欧米の低金利政策がいつまで続くか不透明な状況の下で、高金利時代と同様のアドバイスだけではおのずと限界が生じてしまう。
  外貨運用、特にUSドル投資などを提案する場合は、従来の長期投資に加え、「分散投資」という基本的かつ有効なアドバイスを必ず心掛けたいものである。
2003.10.06
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