>  今週のトピックス >  No.702
中国・上海の高齢者福祉事情
〜日本との連携? を視野に入れた、介護施策の新たな動き〜
●  一人っ子政策に伴う超高齢社会が到来
  9月23日から4日間、中国の上海市にある高齢者福祉施設を数カ所訪ねた。上海市といえば、中国では最も近代化の進んだ都市であると同時に、外資との合弁ビジネスが軒を連ねるアジア有数の国際都市でもある。
  経済的に急速な発展を続ける中国において、今ネックとなりつつあるのが、社会の急速な高齢化である。
  西欧先進国と同様、都市部の近代化は少子化という副産物を生み出す。加えて中国では、長年にわたる一人っ子政策の影響により、ごく近い将来に超高齢社会の仲間入りをすることは間違いない。
  現在、上海市における60歳以上の人口比率は18.5%(中国では、他の先進諸国と異なり、60歳以上を「高齢者」と定義付けている。従って、日本の高齢化率とは一概に比較はできないが、それでも決して低い数字ではない)。正確なデータは不明だが、要介護高齢者の比率も急速に伸びているのは間違いない。
●  大規模施設建設などを盛り込んだ「星光プラン」を実施
  そもそも中国の高齢者福祉は、老後の面倒を見る子どもがおらず、自分の生計を支える職も収入もない人々を対象としてきた。伝統的に儒教の考え方が基本にある中国では、「親の介護は子どもがすべきであり、老親を施設に入れるのはとんでもないこと」(日本でもつい最近までは、この考え方が根強かったが)というのが社会通念であり、中国政府の政策もその通念に支えられてきたといっていい。
  ところが、急速な少子高齢化は、旧来の社会通念を足元から崩しかねない勢いがある。中国政府としても、「高齢者の介護を社会で支える」という方向へ政策転換せざるを得ない。その新たな政策方針の中から生まれたのが、「星光プラン」といわれるものだ。
  この「星光プラン」は、大きく分けて四つの柱で成り立っている。
(1)
高齢者施設の建設
(2)
在宅福祉の充実
(3)
コミュニティー内の「憩いの場」(日本でいうデイサービス)の確保
(4)
これらのハード面を支えるだけの介護スタッフの育成
である。
  上海市でも、この星光プランに準じた高齢者福祉政策が進んでいる。現在、市内には467カ所、3万4,000床の施設があり、全高齢者に対するベッド数の割合は1.4%となっている。上海市の民政局によれば2005年までに1.6%、4万5,000床を目標にしているという。
  ここで問題になるのが、大規模施設の建設が巨額の財政負担を生みかねないという点だ。そこで、上海市の方針としては、施設の建設・運営はできる限り民間に委託し、その分在宅サービスやデイサービスの充実を図るという方針にシフトしつつある。
  中でも民間委託は、ごく近い将来、外資との合弁による事業展開という方向に発展するのは間違いない。つまり、ほかの産業と同様、日本の介護ビジネスが中国という巨大市場に進出していく可能性が大きく膨らんでいるのである。だが、究極の対人サービスである「介護」というビジネスが、異なる文化・風土の中へ浸透していける可能性があるかどうかは不透明だ。
  今回の視察では、その点を占う要素を端々で眼にすることができた。次回はその現場の光景を報告したい。
【上海市の高齢者福祉施設の様子】
【上海市の高齢者福祉施設の様子】
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.10.06
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