>  今週のトピックス >  No.706
中国・上海の高齢者福祉事情2
〜施設は民間に、行政は在宅ケアに注力〜
●  バラエティーに富む設立主体・設立経緯の高齢者施設
  共産主義体制の中国としては意外だが、上海の高齢者施設を見る限り、その設立主体および設立の経緯はバラエティーに富んでいる。今回の視察で訪ねた施設は、
(1)上海市が設立・運営するもの
(2)職業団体の基金によるもの
(3)個人の寄付と行政の出資で成り立っているもの
(4)倒産した国営工場跡地を使って個人の出資で設立したもの
があった。
  最も興味深いのが(4)のケースである。視察で訪れたのが「金色港湾老人公寓」という施設だ。ここではハード面の再利用だけでなく、元工場長以下、職員の約半数が介護研修を受けることで、前職からそのまま施設勤務に移行している。つまり、工場閉鎖後に従業員を失業させることなく、介護職という仕事にランディング(着地)させているわけだ。もちろん、民間運営の独立採算なので、政府は財政的にほとんど痛みを伴わない。改造資金も、工場の機器類を売却して捻出(ねんしゅつ)したという。
  上海市民政局の説明によると、施設ベッド数の民設対公設の比率は、昨年まで3対7だったが、徐々に民設を増やすことで4年後には7対3へ逆転させる計画だという。この急速な改革の裏に、経済構造の変化で使われなくなった土地や設備などの社会資源を生かしていくという発想があるとするなら、まんざらブラフ(はったり)的な数字とは思われない。
●  ヘルパー派遣事業で低所得世帯の介護をカバー
【高齢者施設の居室の様子】
【高齢者施設の居室の様子】
  入居費に関しては、公費の度合いが低いほど若干高くなる。実際に視察した中では、前述した(1)のパターンである「上海市第三社会福利院」が月600〜1,000元(日本円にして約7,800〜13,000円)なのに対し、(4)の「金色港湾老人公寓」では月950〜1,700元(日本円にして約12,000〜22,000円)。各施設で費用にバラつきがあるのは、入居の際に認定される要介護度や1〜3人部屋のどこに入居するかによる。ちなみに要介護度は、上海市の審査によって1〜3級に分類されている。
  月10,000〜20,000円の入居費用は日本人にとっては低価格だが、年金収入が月8,000円程度という中国人の現状を考えると、「施設に入れるのは一部の富裕層」というイメージがまだまだ強い(入居費用に対して行政から若干の補助金は出るが)。しかも、それだけの金額を支払って2〜3人部屋という状況を見ると、施設運営への民間参入だけでは高齢者ケアの底上げを図ることは並大抵ではない。
  そこで、受け皿として機能させようとしているのが在宅ケア、特に訪問系サービスだ。すでに上海市では3年前から「福祉宝くじ」を導入。その資金によってヘルパー派遣事業を推進している。上海市民政局内にサービスセンターが設けられ、そこに連絡をすれば健康相談からヘルパー派遣まで賄える体制がとられている(ちなみに今年末までには、市内2万戸に緊急通報装置を配布する予定)。
  現在、24時間の住み込みヘルパーが月750元(日本円にして約9,800円)であるから、日本のように「必要な時に必要なだけ」というマネジメントが確立すれば、低所得世帯での利用も十分可能になるだろう。仮に、日本の介護ビジネスとの間で交流事業が生まれることとなれば、このケアマネジメントが重要な扉となるかもしれない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.10.14
前のページにもどる
ページトップへ