>  今週のトピックス >  No.718
パートの厚生年金の適用拡大案
〜年金改革の目玉に「待った」〜
●  適用拡大で年金財政の拡大を図る
  総選挙が近づくにつれ、国論を二分するテーマとなりつつあるのが「年金」だ。来年度には大規模な年金改革が実施される予定になっており、国が提示する改革案の一つひとつが政財界にさまざまな波紋を巻き起こしている。
  波紋を呼んでいる改革案の一つが、「短時間労働者(パート・アルバイト)に対する厚生年金適用の拡大」である。
  現在、短時間労働者に厚生年金を適用されるのは、「正社員の労働時間の4分の3以上勤務していること」が要件となっている。これに対し、今年4月に厚生労働省の社会保障審議会年金部会で提示された案は、
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 年間収入が65万円以上
のいずれかに該当すれば、短時間労働者でも厚生年金を適用するというものだ。
  厚生労働省の狙いとしては、第3号被保険者の増加を抑制することで年金財政の改善を図るという点が挙げられる。また、急増するフリーター層に厚生年金の網を掛けることで、若年層の保険料徴収率を上げたいという思惑もあるといわれている。
  この改正案については、将来の年金給付を保障する施策として、経済界も労働団体も受け止め方はおおむね好意的と思われた。ところが、この改革案が公表されるや、一部で真っ向から反対する声が上がったのである。
●  業界を交えた議論が続く
  反対声明を出したのは、外食関連の業界8団体(日本フードサービス協会など)と流通・小売り関連の業界12団体(日本チェーンストア協会や日本百貨店協会など)だ。外食・流通・小売りといえば、従業員に占める短時間労働者の割合が極めて高く、特に外食産業などは、全従業員の実に9割近くを短時間労働者が占めている。
  言うまでもなく、新たに厚生年金適用者が増えれば、保険料を折半する企業側の負担は増す。日本フードサービス協会によれば、外食産業界においては、全短時間労働者の40%が新たに厚生年金の適用対象となる。これにより企業側が負担する短時間労働者の保険料は、3倍以上に膨れ上がるという。
  業界としては、確かに死活問題には違いない。また、反対声明の中では「店舗の閉鎖やパートの解雇を進めざるを得ない中で、雇用の急激な悪化も懸念される」とうたい、「当のパートの8割も『厚生年金適用拡大に反対』している」と業界内のアンケート調査を発表している。今年中には、「100万人の反対署名を集める」と意気盛んだ。
  雇用環境の悪化とくれば、労働組合側の反応が気になるところだが、連合(日本労働組合総連合会)のホームページを見ると「多くの人の年金額が増えて将来の生活が保障されるためにも、労働時間や年収の基準を下げることが必要」と大々的に述べている。改革案に関しては「強力な応援団」である。
  ある労働組合幹部は、「そもそも外食・流通産業界は『人を安く使えるから』という理由で、正社員からパートへの切り替えを強力に推し進めてきた。その行為自体、雇用不安を助長していたわけで、今さら『雇用不安』を言い出すのは滑稽」と切り捨てる。
  ともあれ、業界からの意外な「反発」を受け、厚生労働省は急きょ、改革案に「経過措置等、一定の配慮を払うべきである」との表現を付け加えた。早ければ総選挙後の国会で本案は審議されることになるが、混乱は長引きそうだ。
第3号被保険者
厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者のうち、年収130万円未満の人。国民年金の保険料負担はない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.11.04
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