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平成15年度経済財政白書が唱えた公的年金制度改正
●  世代間格差をなくし、リスクに強い年金制度の構築を
  竹中経済財政政策担当相は、10月24日の閣議に平成15年度の年次経済財政報告(経済財政白書) 「改革なくして景気回復なしV」を提出した。今回の白書は3章から成り、このうち、第3章「高齢化・人口減少への挑戦」の中で、公的年金制度改正の問題が取り上げられている。
  来年度に予定されている公的年金制度改正を巡り、現行制度の給付水準を極力維持しようとする厚生労働省に対し、財政支出の拡大を懸念する財務省や、企業の負担増による労働意欲・企業競争力の悪化を懸念する経済産業省が、これに異を唱える構図となっている。
  今回の経済財政白書では、公的年金に関し、「世代間格差」の拡大を強く指摘するとともに、「持続可能性」の高い年金制度の構築を主張し、どちらかというと財務省や経済産業省の意向を色濃く反映したものとなった。
<経済財政白書の公的年金制度改正に関する部分(要約)>
  • 少子・高齢化、リストラによる雇用者数の減少、公的年金積立金の運用の悪化などにより、年金財政は悪化し、また、既に現時点においても公的年金の保険料負担はほかの租税・社会保険料負担と比べると最も重いものとなっている。
  • 現行制度のしくみは、少子・高齢化に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、人口推計における予測を上回る少子・高齢化の進行によって、年金制度を持続するために必要な保険料負担と年金給付水準の改定が不十分なものにとどまった。現行制度では、先に生まれた世代ほど拠出した保険料負担に対する給付水準の比率が高く、後の世代ほどそれが低くなるという世代間格差をもたらす。
  • 高齢化・人口減少が進行する中で、日本の公的年金制度の持続可能性は大きく揺らいでおり、従来のように「低い負担で手厚い給付」というわけにはいかない。保険料負担と年金給付の在り方の見直しを通じて世代間格差を許容可能な範囲に是正するとともに、人口構造の変化や経済変動のリスクに頑強な制度を構築することが必要である。
    さらに、世代内の公平性を確保するため、人々の就業やライフスタイルの選択に対して中立的な制度への見直しを図ることが必要であるほか、未納・未加入問題に対しては、その是正のために強力な措置を取ることが必要である。
    以上のような取り組みを通じて、制度に対する国民の信頼を高め、高齢化のピーク時においても持続可能で、国民の「安心」と「活力」の基盤となる公的年金制度を構築することが求められる。
<参考>公的年金制度改正を巡る最近の動き
9月4日
社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)年金部会が年金制度改革に向けた意見書案取りまとめ。保険料率に上限を設け、給付を調整する新方式を提案。
9月5日
坂口厚生労働相が、年金制度改革の試案を発表。厚生年金の場合、保険料率を段階的に現行の13.58%から20%(労使合計)まで段階的に引き上げ。一方、給付は、現在約150兆円ある公的年金の積立金を徐々に取り崩すことにより、削減を小幅にとどめ、厚生年金の場合、現役世代の手取り賃金の約55%の給付水準に(現在は59%)。
9月12日
社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)年金部会が年金制度改革に向けた意見書取りまとめ(内容は9月4日の意見書案とほぼ同様)
9月12日
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の合同部会で、財務省は既に年金を受給している人も含め、年金給付額の大幅削減を求める試案を提示。同審議会が議論を詰め、厚生労働省に働きかけることで合意。
2003.11.17
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