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「混合診療解禁」の行方
〜激しさを増す政府と医師会の対立〜
●  医療の発展に伴い、混合診療の解禁が求められる
  医療分野の規制改革では、株式会社参入の是非がクローズアップされがちだが、もう一つ注目されるのが「混合診療の解禁」である。
  混合診療とは、公的医療保険が適用される診療と保険適用外の診療を同時に提供することをいい、現行の医療制度では原則として認められていない。もし、医師が混合診療を行えば、すべての診療は初診にまでさかのぼって「自由診療(医療保険が適用されない診療)」となり、患者は診療費用の全額を負担しなければならない。
  例えば、がんなどの難病に苦しむ患者が、海外で安全性と有効性が認められている医薬品の使用を望んだとする。だが、海外で使用されていても、国内で認可されていない医薬品も存在し、これを使えば現在受けている診療は「混合診療」とみなされる。すると、とんでもない額の自己負担が発生してしまう。
  現行制度でも、一部「混合診療」が認められているケースはある。いわゆる差額ベッド代や高度先進医療にかかる費用など、国が「特定療養費」と認めている部分がこれに当たる。だが、昨今の著しい医療の発展に対し、個別に「特定療養費」を認めていくやり方では追いつかなくなっているのも事実である。
●  本当の意味で患者のためになる規制改革が望まれる
  今年7月、政府の総合規制改革会議は、「規制改革推進のためのアクションプラン・12の重点検討課題」に関する答申を小泉首相に提出した。医療分野に関しては「混合診療の解禁(保険診療と保険外診療の併用)」が大きく取り上げられ、「現行の特定療養費制度における高度先進医療のみならず、新しい医療技術についても、個別の承認を必要とせず、いわゆる『混合診療』を包括的に認める制度を導入すべきである」とうたっている。
  この答申に対し、強く反発しているのが日本医師会だ。そもそも日本医師会は、早くから「混合診療の解禁」に反対する論陣を張ってきた。その趣旨は以下の通りである。
(1)
「混合診療の解禁」を認めることで保険適用外の診療範囲が拡大する恐れがあり、患者の支払い能力によって、受けられる医療に大きな不公平が生じる。
(2)
国民にとって必要な医療は原則として公的保険を適用すべきであり、新しい医療技術に関しても迅速に保険適用を認めるルールを作ることが先決である。
  実は、総合規制改革会議の答申に先立つ1カ月前、政府は経済財政諮問会議がまとめた「基本方針2003」を閣議決定している。この中では、「特定療養費制度」の迅速な拡大を図ることで、実質的に「混合診療の解禁」を目指す趣旨が示されていた。
  これに対し、先の総合規制改革会議の答申は、閣議決定された基本方針からさらに一歩踏み込んだ内容になっていたのだ。医師会側としては「閣議決定された方針の直後に、なぜこうした答申が出てくるのか」という疑念を抱き、「政治的な意図を感じる」という声さえあがった。いずれにしろ、医師会側の態度を硬化させる要因になったことは否めない。
  折しも衆院選挙を迎え、各地の医師会では立候補者に対して「医療制度に関するアンケート」を大々的に実施した。この質問の中に「混合診療の解禁に賛成か? 反対か?」という項目がある。この手のアンケートはおおむね政党ごとに同じ回答になるのだが、興味深いことに、「混合診療」の項目に限ってみると、同じ政党内でも回答にバラつきが目立つ。
  政府や財界、医師会がヒートアップする一方で、政治家側はいまだ明確な立場を築けていないのかもしれない。今後、国会論戦などを通じ、本当の意味で患者のためになる議論が深まることを期待したい。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.11.17
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