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「高齢者介護研究会」報告の衝撃
〜高齢化率26%時代に向けた「政策転換」〜
●  介護保険制度改正に向け、今後の施策に注目
  今年6月、厚生労働省老健局長の私的研究会である「高齢者介護研究会」が発表した「2015年の高齢者介護」が介護業界で話題になっている。2015年といえば、いわゆる団塊の世代が65歳に達する年に当たる。その世代の人数は直近世代の1.5倍といわれ、日本の高齢化率を一気に押し上げる。ちなみに、その数字は26%、想像を絶する割合になると予測されている。
  この凄まじい高齢社会が到来したとき、医療・福祉・年金といった制度が今のまま存続できると考える人は、まずいないだろう。当然、従来の社会保障制度を根本から覆す発想が求められるわけだが、今回の報告書はその一里塚を築くものといっていい。
  報告書の趣旨を主なポイントに分けてみると、以下のようになる。
(1)
在宅でも施設でもない、地域密着型の新たな介護サービス体系を提示したこと
(2)
「寝たきり高齢者」から「痴ほう高齢者」へ、介護モデルの重点をシフトしたこと
(3)
介護予防やリハビリテーションに重きを置いたサービス体系を模索し始めたこと
(4)
サービスやケアマネジメントの質の担保について、積極的に言及していること
  はっきり言えるのは、この4本柱が介護保険のスタート時に「積み残した」課題をしっかり含んでいるということだ。つまり、現在進行形の施策について、官庁自らが「失策」を認めたということであり、日本の行政史上においても画期的なことといえる。
  例えば(1)は、「いまの段階では『施設から在宅へ』というシフトは困難で、在宅に変わる新たな受け皿が必要」と言っているに等しい。これは明らかな「政策転換」だ。
  この受け皿として想定されているのが、介護サービス機能を備えた「ケア付き住宅」である。これなら住み慣れた地域の生活を維持しつつ、施設的な「24時間・365日の安心」を得ることができる。施設のように大規模である必要はないため、住民の生活エリアの中に建設することが可能で、しかも周辺地域の一般家屋にもサービスを「出前」できる。
  現行でも、ケアハウスやグループホームといった「住居と施設の中間型サービス」はあるが、どちらかと言えば、「亜流」という色合いが強かった。このカテゴリーをサービス体系の主役に引っ張り上げたという点だけでも、業界全体に与えた衝撃は小さくない。
  さらに、(2)は「要介護認定からケアプランまでの制度全般を、痴ほうケア中心に組み替える」ということであり、(3)などは「リハビリを核としたサービス体系に組み替えなければ、要介護度の悪化を防ぐことができない」と告白したのも同然だ。(4)も、「介護の質を担保するには、サービスのあり方を大胆に見直さなければならない」ことを如実に示している。
  問題は、この報告書が「2015年」という10年以上先のビジョンを示した未来図であるということだ。期限を切ったことは評価できるが、すでに超高齢社会を迎えている現状を見れば、悠長すぎるといえなくもない。この報告書が単なる夢物語に終わるか否かは、2005年に迫った「介護保険制度改正」の行方で明らかになるだろう。
高齢化率 総人口に占める65歳以上人口(老年人口)の割合
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.12.01
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