>  今週のトピックス >  No.741
揺れ動く生活保護制度
〜省庁間の駆け引きに使われる国民の命綱〜
●  生活保護費と公立保育所がターゲット
  いわゆる三位一体改革(国と地方を通じた税財政改革)の具体的内容が、詰めの段階を迎えている。掛け声段階では勇ましかったこの改革も、具体的な中身の詰めに至り政治的な思惑や省庁間の駆け引きが際立ってきた。
  中でも焦点となっているのが、先に小泉首相が指示した「補助金1兆円削減」の具体的な内容である。これについて、政府・与党は今月10日、主に厚労省施策に関連する地方への補助金削減案の調整を行った。
  ターゲットになったのは、生活保護費と公立保育所への補助金である。
  当初、厚労省が示した案では、生活保護費の国庫負担割合を減らすことで約1,680億円削減するとしていた。現在、生活保護費の国庫負担割合は75%だが、これを66%まで下げるというものだ。これに対して、地方からは「(生活保護費の国庫負担割合を下げても)地方の裁量は広がらない」という反発の声が強く上がったという。
  生活保護というのは、社会保障制度の中でも「国民の最低限の生活を保障する」という憲法の理念に直結し、しかも生活保護法という法律の下で運用規定がしっかり固定されている。現在、生活保護行政が抱えている問題は、それをしっかり運用できるケースワーカーなどのマンパワーが不足している点にある。確かに、国と地方の財源比重を論じていても、地方の裁量拡大につながるというものではない。
  この点に敏感に反応したのが総務省だ。同省はすぐさま、裁量拡大を実現する上では公立保育所の補助金にメスを入れる方が先、という見解を示した。ここで見えてくるのは、厚労省と総務省の間で、地方行政の手綱を奪い合っているという構図である。
  結局、政府・与党間でまとまったのは、生活保護費の圧縮を2005年度以降に先送りし、代わりに公立保育所への補助金約1,700億円の全額を一般財源化するというものである。生活保護費の圧縮に関しては、対象者の認定状況などを1年かけて調査した後に見直すとしている。要するに、政府側が与党・厚労族に押されて先送りの姿勢を示したという図が垣間見える。
  一方、厚労省は、来年度から70歳以上の高齢者に加算していた老齢加算を廃止する方針をすでに示している。表向きは「高齢者は若年層より消費支出が少ないというデータがある」ことが理由とされているが、庶民の感覚からすると首を傾けざるを得ない。
  言うまでもなく、地方経済はいまだ低迷にあえぎ、都市部の大企業などでは一巡したといわれるリストラも真っただ中にある。生活保護費の支給が、文字通り命綱の色彩を濃くしているというのが地域の実態だ。そんな中で生活保護が政治と省庁間の駆け引き材料にされている光景は、何ともやりきれない。
  昨今の時勢では、生活保護費の不正受給も増えており、行政側は運営の適正化に力を入れようとしている。もし、今回の改革を適正化という名の下に進めようとするのであれば、ケースワーカーの調査権限を強めるなど、もっと違った改革の方向性があるのではないだろうか。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2003.12.15
前のページにもどる
ページトップへ