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政府予算案に見る社会保障費の突出
〜介護保険改革に向けた布石〜
  2004年度予算の政府案が決まった。文教関係や公共事業関連の予算が軒並み削減される中で、社会保障関係費の4.2%プラスという突出が際立っている。その割には国民の生活不安を払拭する印象からはほど遠い。
  この予算案が出される2週間ほど前、国立社会保障・人口問題研究所が社会保障給付費の2001年度総額を発表している。対前年度比は4.2%プラス。奇しくも、今回の予算案に示された伸び率と一致している。
  つまり、今回の予算案に現れた数字は、急速な高齢化やリストラなどによる失業者の増加がもたらす社会保障関係費の自然増を示したにすぎない。いくら金額が増えても、帳尻を合わせただけの数字では、国民側が漠然とした不安を抱いてしまうのは仕方ないだろう。
  このまま明確な社会保障ビジョンが示されなければ、当然「自然増をいかに抑えるか」という部分に議論が集中する。つまり、毎度のことながら、社会保障費の突出を許している“犯人探し”に拍車がかかるわけだ。
  総選挙をはさんでここ数カ月、“犯人役”としてまな板に乗っていたのが、年金である。ヒートアップする一方だった年金改革が、ある時期から「結局、近い将来、消費税で賄うことは避けられない」という諦めにも似た空気が流れてから、比較的落ち着き始めた感があるのは気のせいだろうか。
  代わって、新たな犯人役となりそうなのが「介護」である。やはり今回の予算案が出される直前、国民健康保険中央会が最新の介護保険給付状況を発表した。それによれば、2003年8月分の介護給付費は前年同月比8.3%の伸びを記録。介護保険スタートの2000年から2002年にかけての月平均給付費の伸びが31.0%であるから、03年4月の報酬改定を経ても、思ったほど伸びが抑えられていない。
  この状況下、介護給付費伸長への不快感に先鞭をつけたのが、財務省の諮問機関「財政制度等審議会」である。予算案が出される直前の2003年11月26日、同審議会は「平成16年度予算の編成等に関する建議」を財務相に提出した。その中の介護保険に対する部分で、「現行制度の存続は、今後の保険料・税負担の増大により持続困難であることを踏まえた見直しが必要」と、激しい表現をぶつけている。
  さらに具体的な提案の中で、「介護サービス利用時の自己負担を現行の1割から2〜3割に引き上げることが必要」、「施設サービスはホテルコストを徴収すべき」とうたっている。すでに厚生労働省内の審議会では、介護保険料の徴収を現行の40歳から20歳へと拡大する議論が出ているが、これに自己負担増を組み合わせるとなれば、年金改革以上の嵐が訪れることは必至であろう。
  介護保険制度の見直しは2005年。そもそも介護というのは、医療に比べ、「必要ないサービスはカット」という主張がしやすい傾向がある。存続可能な制度を目指すための改革は必要ではあるが、そのためには現場の視点で「何が必要なのか」をきちんと議論することが大前提だ。財務省のさじ加減だけが突出する改革にならないことを願いたい。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.01.05
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