>  今週のトピックス >  No.755
精神障害者の社会復帰について
〜根強い差別と偏見を断つことは可能か〜
●  20人に1人は「うつ」病患者
  時代の変化が激しくなるにつれ、心に変調をきたす人が急増の一途をたどっている。現在、日本で精神科にかかる患者は200万人以上に達するといわれ、ここ数年問題視される「うつ」に関しては、潜在的な患者数を含めると国民の20人に1人というデータもある(WHOのデータを基に試算したもの)。
  こうした心の変調が深刻化すると、日常生活を送るうえで支障をきたすことも少なくない。こうした人々は、生活上のさまざまな支援を受けるために、精神障害者手帳を有することになる。この時、「精神障害者」と認定される。
  問題は、この精神障害者に対する正しい認識が、一般市民になかなか浸透していないことである。そのため、精神障害者といえば「怖い人」「何をするか分からない人」というイメージを持たれ、地域や職場において差別や偏見を受けることになる。
●  「精神障害者は何をするか分からず怖い」という認識
  精神衛生の専門家が行った調査では、「精神障害者は何をするか分からず怖い」というイメージに対して、「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答した人の数は、精神障害者支援に携わる人々とそうでない一般市民との間で、40%近い開きが生じた。それだけ、誤った認識が流布し、精神障害者の社会復帰を大きく阻害しているといえる。
  こうした誤った認識がなかなか改善されない背景には、大阪・池田小の児童殺傷事件などが影を落とす。しかしながら、実際は、年間総検挙人数の中で、精神障害者が占める割合はわずか0.1%にすぎない(司法統計より)。このあたりの誤差は、事実を国民に分かりやすく説明するという義務を、国側が怠ってきたことのツケと言えるのではないだろうか。
●  地域住民とのかかわり方と国の財政援助が今後の課題に
  現在、厚生労働省では、「精神障害者の地域生活支援のあり方に関する検討会」や「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」などが、数多く開催されている。こうした動きに後押しされるように、精神障害者の社会復帰を目的とした施設建設や在宅支援サービスの充実を目指す動きが、全国各地で見られるようになった。
  しかし、差別や偏見という壁は依然として立ちはだかっている。関東のある地域では、精神障害者社会復帰施設の建設計画に対し、地元住民が「精神障害者が身近に来るとトラブルになる」と反対運動を起こしている。職業訓練をはじめとする社会復帰を目的とした施設は、地域住民との接点が生まれやすい地区に建設することが最も重要だ。それゆえ、住民理解が得られなければまったく前には進まない。
  考えてみれば、自分や家族が精神障害者となる可能性はだれにでもある。つまり、精神障害者と地域のかかわり方は、自分自身の問題ととらえる必要があるわけだ。
  もちろん、問題は住民感情だけではない。財政難を理由に国がなかなか補助金を出さず、資金面での計画頓挫も少なくない。実際、昨年度の補助金交付件数は、申請全体の半数にも満たない。お金がすべてとは言えないが、国側が財政支出によって明確な姿勢を示さない限り、国民の差別と偏見をなくすことなどできないのではないだろうか。精神障害者と社会との接点は、社会福祉・医療の現場において、今年一番のトピックになることが予想される。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.01.19
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