>  今週のトピックス >  No.763
いま最先端の高齢者ケアは「逆デイサービス」
〜介護保険制度改正に向けたビッグバン〜
●  施設入所者が地域の中で日常を過ごす
  介護保険見直しを巡る議論が徐々にヒートアップする中、現場サイドでは高齢者介護の在り方に一石を投じるさまざまな試みが見られるようになった。その一つとして紹介したいのが、「逆デイサービス」なる取り組みである。
  いわゆるデイサービスは、在宅の要介護者が日中だけ施設などに出向き、そこで生活上のケアを受けるというものだ。これに対して「逆デイサービス」とは、その名の通り「デイサービスの逆」、つまり施設に入所している要介護者が、日中だけ住み慣れた地域におもむいて過ごすというスタイルのケアをいう。
  例えば、住宅街にある古い民家を借り、1回につき、多くて3、4人程度の施設入所者がそこを訪れる。そして、職員と一緒に炊事、洗濯など、自宅にいた時と同じ自立生活を営むのである。グループホームに見られるように、特に痴ほう高齢者にとっては、住み慣れた地域の中で日常を過ごすことが、精神的な落ち着きを取り戻すうえで大きな効果を発揮する。近年普及しつつあるユニットケアを、地域の中へ出向くという形で実践したものと言えば分かりやすいだろうか。
●  福島県で全国初のセミナーを開催
  この「逆デイサービス」に関する全国初のセミナーが、昨年12月に福島県郡山市で開催された。2日間の日程で行われた同セミナーでは、全国10カ所以上の「逆デイサービス」取り組み事例が紹介され、集まった200人以上の聴衆は真剣なまなざしで聞き入っていた。
  実は逆デイサービスの歴史は意外に古く、介護保険がスタートする以前の1997年、長野県真田町にある特別養護老人ホーム「アザレアンさなだ」が、長野県痴ほう性老人先駆的処遇モデル事業の一環として始めたのが最初といわれる。つまり、グループホームや宅老所が注目を集めはじめた時期とほぼ一致する。
  この歴史の長さは、逆に言えば、施設介護の限界がすでに介護保険が始まる以前から指摘されていたことを意味する。住み慣れた地域社会から隔離され、集団処遇の中で"管理"されながら過ごす。これが日本の介護施設の実態だった。人権感覚に敏感な現場スタッフが、「施設の外」により良い介護の在り方を求めたとしても何ら不思議なことではない。
●  ユニットケアの原点に戻り、施設の機能を地域へ分散
  この「逆デイサービス」が、介護保険制度のスタートから4年を経過した今、急速に注目を集めるようになったのには次のような背景がある。
  一つは、「ユニットケア」というスタイルが普及するにつれ、ハード面だけ整えて、本来の「個別処遇」という理念を置き去りにする施設が目立ち始めたこと。こうした風潮に対して、ユニットケアの原点に立ち返ることを提案しているのが「逆デイサービス」だ。
  もう一つは、政策的な追い風が吹き始めたということ。過去のトピックスで述べた、厚生労働省の「高齢者研究会報告書」。この中に記された小規模・多機能型サービス拠点は、いわば施設の機能を地域に分散させることをポイントとする。「施設の機能を地域へ」という理念は、「逆デイサービス」の理念と一致する部分が多い。現段階で「逆デイサービス」に補助金は付かないが、行政が同じ方向を向きはじめたことで、近い将来、何らかの財政的支援が期待できそうだ。
  かつて日本に初めてグループホームが出現した時、介護現場に大きな衝撃がもたらされた。逆デイサービスは、それに匹敵するビッグバンになるかもしれない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.02.02
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