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公的年金は社会保険方式から税方式へ
●  年金不安と景気低迷
  日本経済が低迷している原因の一つに不安定な年金・医療制度が挙げられる。老後や将来への不安・不透明感により消費が萎縮してしまっているのだ。
  これからの年金改革は、国民の将来不安の解消、経済の立ち直りにつながり、かつ世代間での公平性が保たれるかどうかが重要な視点となるだろう。
  平成16年度の年金制度改正案では、現行制度を維持しながらも、年金給付水準を労働力人口の減少まで加味した保険料負担能力内に収めることとなった。これにより、現役世代が際限なく負担を背負う構図ではなくなり、世代間の不公平感も配慮した形となっている。しかし、受給者世代にとっては、給付水準の不透明感・不安感が一層高まってしまう。
●  社会保険の限界
  なぜ制度改正の度に負担増と給付減が繰り返されてきたのか。その原因は、社会保険方式自体にあるといえる。社会保険は多くの者が掛金を拠出し、少ない受益者を支える仕組みである。年金しかり、医療保険しかり、「多くの若年層と少ない高齢者層」という高齢化していないピラミッド型の人口構成が社会保険の前提となっていた。
  しかし、現代の日本社会はまもなく65歳以上が20%、労働力人口2.5人に対し高齢者が1人という高齢社会で、人口構成も花瓶型に近い。社会保険が機能する社会ではないのである。
●  税で支える公的年金
  高齢社会では、社会保険料ではなく税金で公的年金を支えるべきである。基礎年金部分は税を財源として給付し、老後生活の基礎的な生活費を賄う。上乗せとなる2階部分は、サラリーマンは老齢厚生年金および企業年金、公務員は老齢共済年金および職域加算、自営業者は確定拠出年金または国民年金基金によって賄うのである。
  これにより、年金の不安感、不透明感は解消され、高齢者・現役とも過剰な貯蓄をすることなく活発に消費し、経済も活性化するのだ。経済が活性化すれば税負担能力も向上する。さらに新聞報道によれば国民年金は収入保険料の8%が徴収コスト率であり、それは税の6倍だという。税方式により効率的な年金制度運営も可能となる。
  なお、昨年の年金議論の中には公的年金制度を全廃し、民間での老後資金形成にまかせる案もあった。これも社会保険を否定するものだが、老後資金準備を完全に自助努力にゆだねては、社会の安定性が損なわれる。公的年金制度が必要であるのは言うまでもない。
●  財源は所得税と資産税
  年金を税化する際の問題点は、税財源の確保、そしてこれまで保険料を負担してきた世代と負担しなくてすむ世代の不公平感である。これらについては、現在議論されているような消費税一辺倒ではなく、年金保険料の軽減相当分については所得税増税でまかなうことで現役世代に負担を求め、それが見える仕組みにすることで保険料負担世代の納得を得るべきであろう。さらに、ストック社会化の進行に合わせ、資産への課税強化を再度検討する時期にきているのではないだろうか。
(可児俊信、CFP®、DCアドバイザー、米国税理士)
2004.02.02
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