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日本的経営の再検証
●  日本の伝統から西洋流への置き換え
  明治の初めに漢洋脚気相撲という医学の競争があった。これは伝統的な漢方医学と西洋医学のいずれが優れているかをかっけの治療成績をつうじて競ったものである。結果は漢方医学が優れていたとも伝えられるものの、その後日本では西洋医学が主流になっていったのはいうまでもない。その理由は、当時の政府による西洋医学に対する信奉があったためとされている。しかし筆者は、漢方医学は病因と処方そして治癒に至るプロセスが明確でなく、科学性において西洋医学に見劣りしたことも原因ではないかと推測する。
  日本は明治以来、医学に限らず、さまざまな分野で伝統的なものを捨て去り、西洋的なものに置き換えてきた。経営においても同様である。
●  日本的経営から米国流経営学の採用
  戦後の日本は「日本的経営」によって高度成長を成し遂げた。「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の3点セットがその代表である。これらは日本古来からの「ムラ社会」を、そのまま会社内に持ち込んだ共同体システムであり、国民性に適合していたのであろう。
  しかし、高度成長から低成長に移り、さらに国際競争が激化すると、経営者は3点セットの有効性に疑問を持ち始める。そもそも3点セット自体が米国の経営学者が日本的経営の強みとして指摘したもので、日本人自体、それまで明確に意識・検証しなかった。
  日本企業は伝統的な経営を捨てて、米国流の経営学に裏付けられた経営手法を取り入れた。それが目標管理制度であり、成果主義であり、エンプロイアビリティ(雇用の保証ではなく、雇用されうる能力を企業が保証するという考え方)、リストラクチュアリング(事業再構築)などである。日本は戦前・戦後、官民とも優秀な人材は米国に多く留学しており、米国流を取り入れることにさほど抵抗感がないこともそれを促進した要因であろう。
  しかし、米国流の経営を取り入れて、日本企業は立ち直っただろうか。
●  日本的経営の再検証
  いち早く成果主義を採用したある電機メーカーは、大幅な業績悪化に陥り、社長は失言をマスコミと社員にたたかれ、退陣に追い込まれた。目標管理制度はその趣旨が曲げられ、上司と部下が示し合わせて低い目標を設定し、完全達成を狙う本末転倒の会社もあるという。リストラクチュアリングに至っては、単なる人減らしと同義語となっている。成果主義は、本来はやる気があり頑張った従業員に報いる制度であるはずだが、従業員を逆選別する手段として用いられている。こうした米国流経営採用の悪しき結末が中高年の自殺の急増ではないだろうか。もちろん、勝ち組、負け組という言葉も定着し、多くの日本企業は傷ついた。
  そろそろ伝統的な日本的経営を見直す時期ではないか。3点セットは日本社会と相性がよいはずである。ワークシェアリングの考え方を取り入れて、社員全体で雇用維持を実現する「終身雇用」はできないか。成果を挙げたものには、昇格・昇給ではなく人間が最も大切にする自尊心・プライドを高める人事処遇を行うことで、「年功序列」と両立できないか。「企業内組合」は、ユーザー・消費者の立場として経営層に助言することで新たな役割を担えないだろうか。
  日本企業の復活は米国流経営の採用ではなく、日本的経営の再評価・検証が鍵である。
(可児俊信、CFP®、DCアドバイザー、米国税理士)
2004.02.09
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