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市民主導の「移動・移送サービス」に新時代!?
〜道路運送法80条規制緩和の行方〜
  今年1月、「移動・移送サービス」にかかわるNPOやボランティア団体が集結し、東京都内で“緊急”フォーラムを開催した。
  「移動・移送サービス」は、要介護高齢者や障害者、あるいは病院治療のために通院している人(透析患者の利用が特に多い)など、身体的理由などによって自力での移動が困難な状況にある人を対象に、車両を使って目的地まで利用者を移送するサービスを言う。
●  道路運送法80条に縛られるサービスの現状
  「移動・移送サービス」と聞くと、タクシー事業者が運営する「介護タクシー」を思い浮かべる人も多い。だが、現実には営利事業者だけで利用者ニーズをまかなうことは難しく、ニーズの大半はNPOやボランティア団体など非営利のグループに支えられてきた。
  実際、移動・移送サービスにたずさわる非営利団体は2003年3月現在で約2,500団体にのぼり、その発足は70年代にまでさかのぼる。対して、営利事業である介護タクシーの事業者数は267社にとどまり、大半は2000年の介護保険制度の導入によって事業者指定を受けている。つまり、実績やすそ野の広がりを見れば、移動困難者の生活を支えてきた主役は「非営利の市民活動」であることがわかる。
  だが、30年近くの実績の中で、この「非営利の市民活動」の前には、常に国の規制という壁が立ちはだかってきた。具体的には、道路運送法80条の問題である。
  道路運送法80条とは「利用者の安全性を確保するため、自家用車を用いての有償の輸送業務を禁ずる」ことを示した法律で、これに抵触する白ナンバー車営業は、一般に「白タク」と呼ばれる。そのまま解釈すれば、非営利団体による移動・移送サービスはあくまで「無償」による活動に限定されることになる。だが、「有償ボランティア」という概念が一般的な現在、NPOやボランティアによる活動とはいえ、かたくなに「無償」を貫くことはサービスの広がりを抑制し、バリアフリーの時代に逆行するものという意見が根強い。
  実は、この80条には1項に例外規定が設けられており、この中で「公共の福祉を確保するなどやむをえない場合に限り、国土交通大臣の許可を得て自家用車での輸送ができる」とされている。だが、この場合の運営主体は自治体や社会福祉協議会などに限られる。
●  期待される利用者側のニーズの反映
  この80条1項の規制緩和がどこまで進むのかが、いま大きな論点となっている。2003年1月、国土交通省は「構造改革特区において80条の特例措置を実施する」うえでのガイドラインを提示したが、いわゆるセダン型の普通乗用車の活用が制限されるなど、市民団体の側にとっては不満が大きい内容となった。その後、関連団体が次々と要望書を提出し、これを受けての全国的なガイドライン作成が進められている。冒頭で紹介した緊急フォーラムは、そのガイドライン提示へ向けての「アピール集会」という性格を持つ。
  すでに一部のマスコミで報道されたところでは、国土交通省は市民団体側の要望をほぼ受け入れ、劇的な規制緩和を盛り込んだガイドラインを策定中であると言われる。だが、市民団体との“競合”を意識するタクシー業界などからの反発も予想され、2月中にも発表されるガイドラインの最終形はまだ不透明だ。重要なのは、利用者側のニーズの実態をどこまで反映させるものになるかという一点にある。バリアフリー社会の実現へ向けて、大きな一歩となるのか否か、慎重に見守りたい。
なお、介護保険におけるいわゆる「介護タクシー」に関しては、国土交通省と厚生労働省が共同で示した中間案が発表された。それによれば、原則として2種免許が必要だが、非営利団体の場合は例外措置として安全講習を受け、国土交通省の許可を取ればOKとされている。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.02.16
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