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退職給付制度の現状
  退職給付会計の導入、年金資産運用回りの低迷により、退職給付制度は転換点にある。厚生労働省が実施した「就労条件総合調査(2003年)」から、退職給付制度の現状に関する調査結果の概要を報告する。
●  企業規模による給付格差が浮き彫りに
  退職給付制度を実施している企業は回答企業全体の86.7%である。従業員数1,000人以上の企業では実施率は97.1%であるが、100人未満の企業では84.7%と、企業規模が小さくなるに従い、退職給付制度を持たない企業が増えている。そのうち年金制度を持つ企業は全体で53.5%と、前回の97年調査時の52.5%とほとんど変わっていない。1,000人以上の企業では、89.0%であるが、100人未満の企業では45.9%に過ぎない。
  退職一時金の準備手段は、小規模企業になるほど公的退職給付準備制度の利用が増えている。100人未満の企業では、中退共を39.2%、特退共を12.9%が利用している。業種別に見ると、建設業は6割以上が公的制度を利用している。
  退職一時金の算定基礎も企業規模別に異なる。図表にあるとおり退職時の基本給を算定基礎とする企業が7割と大部分であり、別テーブル方式、定額方式、点数方式(ポイント制)がそれぞれ1割ずつを占めている。ただし企業規模が大きくなるほど、退職時基本給を算定基礎とする企業は減る。しかも基本給の一部だけを算定基礎とする企業が増え、昇給が退職金額にそのまま影響しないよう工夫されている。また企業規模が大きくなるほど、点数方式(ポイント制)の採用が進んでいることが分かる。点数方式とは、各職能等級等に所定の点数(ポイント)を定め、在級年数をこれに乗じて、退職までの累計点数を算出し、これに1点あたりの単価を乗じて退職一時金額とする方式である。
  企業年金については、厚生年金基金導入企業は46.5%、適格退職年金は65.8%、両社の併用は19.0%、確定拠出年金は1.8%となっている。企業規模別では、1,000人以上の企業において厚生年金基金が最も普及しており、300人から1,000人未満の企業において適格退職年金が最も普及している。
●  退職給付制度の質の格差も拡大へ
  なお、この調査では、退職給付制度の見直し状況についても回答を求めており、過去3年間に見直しを行った企業は全体で14.3%(1,000人以上では35.2%、逆に100人未満では12.1%となっている)、今後3年間に見直しを予定している企業は20.5%(1,000人以上では48.8%、100人未満では15.5%)となっており、見直しの意向は1,000人以上の企業を除き、全体ではあまり強くはないようだ。
  冒頭に述べたように退職給付制度は転換点にある。久しく指摘されている大企業と中小企業の退職給付水準の格差はいまだ解消されてはいない。加えて算定基礎の多様化の程度や退職給付制度見直しへの取り組み状況が企業規模によって大きく異なることが判明した。
  単なる給付水準の差にとどまらない制度面での質的な違いも、新たな格差となりつつある。
【図表 退職一時金額の算定基礎】
(単位:%)
 
退職時の
基本給
すべて
退職時の
一部の
基本給
別テ−ブル
方式
定額方式
点数方式
その他
企業規模計
40.8
28.8
13.9
8.0
11.2
2.2
1,000人以上
23.2
22.7
16.0
5.3
35.9
4.8
300〜999人
31.6
25.0
19.1
5.7
21.6
2.7
100〜299人
39.1
28.9
14.5
5.5
13.3
2.3
30〜99人
44.1
29.8
12.7
9.7
6.9
2.0
(注)複数回答であるため横計は100%を超える
全国の従業員数30人以上の企業5,300社を対象とし、回答率は80.8%である。退職給付制度以外に、労働時間についても調査がなされている。
(可児俊信、CFP®、DCアドバイザー、米国税理士)
2004.02.16
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