>  今週のトピックス >  No.776
日本経済が抱える課題
〜どれから解決するか〜
  「改革なくして回復なし」「国民は改革の痛みに耐えよ」――小泉政権の経済政策の基本方針である。小泉政権が誕生して3年が経過しようとしている。
●  日本経済の3大課題
  景気回復には本当に構造改革が必要だったのだろうか。日本経済の再生には何から手をつけるべきなのだろうか。   まず日本経済の課題は何か。それは大きく3つに集約できる。1.景気回復、2.構造改革、3.財政再建である。
  景気回復は誰しもが望むことであり、現実に失業などの痛みを抱える国民も多いことから喫緊の解決課題である。構造改革の必要性も論を待たない。少子・高齢化、情報化、国際化といった社会・経済環境の変化のなかで、従来の産業構造やビジネススタイルはもたなくなっている。そして財政再建も子孫へツケを残さないという意味で重要である。2003年度(当初予算ベース)は、歳出81兆円に対して税収41兆円に過ぎず、残りは借金でまかなうという異常事態である。
  では、これらの課題のいずれの解決を優先させるべきだろうか。ここで米国の例をみてみよう。
●  米国の景気回復
  80年代の後半から90年代初のブッシュ(父)政権時代の米国は、S&L破たんなどに代表される不良債権、財政赤字、長引く不況に悩まされていた。今の日本と同じである。湾岸戦争に巨額の軍事費を投入し財政赤字は一層深刻となっていた。しかし93年にクリントン大統領が就任し、大胆な金融緩和とともに情報ハイウエー構想に代表される新しい社会環境に対応する政策を打ち出した。株価もそれに反応し、NYダウは就任当初の4,000ドル台から12,000ドル近くまで上がった。株価の長期上昇を背景に彼は在任8年間で財政黒字を達成しただけでなく、不良債権の処理およびITバブルともいわれる好景気をもたらし、米国経済の課題を完全に解決した。クリントン氏はスキャンダラスなイメージが強いが、今思えば経済政策は完ぺきであった。
  ちなみに一度は立ち直った米国経済も2001年にブッシュ(子)が大統領となると、再びイラク戦争に巨額の軍事費を投じるなど、たちまち財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」に陥っている。
●  まずは景気回復
  米国を手本とすると、日本経済への最優先課題は、構造改革や財政再建ではなく景気回復であろう。幸い昨年春のりそな銀行の政府による救済以来、株価はすっかり持ちなおした。これは97年の山一証券、拓銀の自主廃業、破たん処理で株価が一段と下落したことと対照的である。
  株式の持ち直しにより心理的な安心感が広がっている。そして景気は上向きの兆しをみせている。この心理的な景気回復を本物とするためには、ここで大型の景気対策を行うべきであろう。大型の景気対策には、財政再建の視点からの反対論が強い。
  しかし米国の例でもみるとおり、景気の回復が税収増につながり、財政再建につながる。景気回復は地価の安定をもたらし不良債権処理が促進される。そして企業は体力が回復すれば、新しい社会・経済環境の変化への対応を始めるので、行政の規制がそれを阻害することがないようにする。それが構造改革となる。
  「回復なくして改革なし」である。
(可児俊信、CFP®、DCアドバイザー、米国税理士)
2004.02.23
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