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介護予防モデル事業、間もなくスタート
〜事業の成り行きが介護保険の命運を分ける!?〜
  2月23日に厚生労働省の第9回介護保険部会が開催され、来年に予定されている介護保険制度改正に向け、そのポイントが徐々に絞られてきた。その大きな論点の一つが、「軽度の要介護者の要介護度悪化を防ぐ」施策導入である。
●  財政をひっ迫させる「要介護度悪化」の現状
  過去のトピックスでも述べた通り、現行の介護保険財政は極めてひっ迫した状況にあり、その要因の一つとして「要支援・要介護1といった軽度要介護者の多くが、短期間のうちに要介護度を悪化させている」という点があげられる。本来、要介護高齢者の自立支援を目的とした介護保険であるはずが、逆に自立から遠ざかる現象を生み出しているとあっては、財政健全化をとなえる人々の批判の矢面に立ってしまうのは致し方ない。
  そこで厚生労働省は2003年7月に高齢者リハビリテーション研究会を設け、要介護度の悪化を防ぐことを目的とした「介護予防・リハビリテーション」の確立を目指している。その中間報告書が今年1月にとりまとめられ、介護保険部会にも重要資料として提出されている。さらに、介護保険部会開催に先立つ2月19日には、厚生労働省老健局が「介護予防重点推進本部」の設置を宣言、2004年度から介護予防に関する調査分析と市町村レベルにおけるモデル事業の実施を決定した。
  高齢者リハビリテーション研究会の報告においては、現行のリハビリテーションモデルが「脳卒中患者」を対象としたモデルに偏っていると指摘したうえで、「廃用症候群による要介護度悪化を防ぐ」リハビリテーションモデルが必要としている。つまり、現行の高齢者介護のあり方が「自分でできる行為」までも支援してしまい、歩行不能や家事不能が作られているというのである。これは、訪問介護における家事援助(生活援助)などが「要介護者の自立支援に結びついていない」と強く批判しているに等しい。
  この報告書をベースとして、介護予防・要介護度悪化防止に向けたモデル事業が開始されるわけだが、この事業の行く末によっては、比較的要介護度の低い顧客を持つ訪問介護・通所介護事業者にとって死活問題にもなりかねない。全国2万5,000近い事業者の立場にすれば、すでに戦々恐々の状態である。
●  介護予防事業が抱える課題
  問題は、現行の介護保険サービス体系の中に、介護予防事業をスムーズに組み入れることができるのかどうかである。現行のサービス体系でさえ、ケアマネジメントの質を疑問視する傾向が強い中、より高度な評価が求められる予防マネジメントをどうやって保証していくのか。さらに、介護保険制度と障害者の支援費制度との合流が避けられない状況にある中で、障害の形態に応じた介護予防やリハビリテーションをどのように位置づけるのかという点も大きな課題である。   有識者の一部からは、「介護予防」という新たなサービス枠を作ることで、「かえって財政悪化を招くのでは」という懸念も上がっている。厚生労働省としては「介護予防サービスが効果的に提供されれば、要介護度の悪化を防ぎ、長期的に財政負担を軽減できる」という言い分を繰り返しているが、果たして思惑通りになるのかどうか。とりあえずは、モデル事業の効果に注目してみたい。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.03.01
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