>  今週のトピックス >  No.792
介護保険改正で議論されないポイント
●  公的年金の後をたどる介護保険
  厚生年金保険改正に隠れているが、5年に一度の介護保険改正の議論も同時に進められている。最大の論点は保険料負担者の拡大であり、これまで40歳以上だった被保険者を20歳以上まで広げる方向である。また介護サービス内容についても、コストのかかる施設介護を見直して在宅介護に重点を移す、要介護度が低い利用者に対しては介護負担を軽減する介護サービスよりも要介護状態の進行を防ぎ自立を促す介護サービスを積極利用する、という見直しも予定されている。
  実際に要介護認定者は介護保険が始まった2000年4月末では218万人だったが、2003年10月末では371万人と70%も増加している。介護給付費用も2000年度の3.2兆円から2004年度予算では5.5兆円までに膨れ上がっている。
  膨れ上がる給付費用の抑制と同時に、保険料収入の増額を図るのが今回の制度改正といえる。
  厚生年金保険改正においても給付減額と保険料増額が法案に盛り込まれている。このままでは介護保険も厚生年金保険、健康保険の二の舞、三の舞になりはしないだろうか。今のうちに本質的な議論をすべきである。今回の介護保険改正で本来議論すべきなのは、1.介護保険を税財源でまかなうことの是非、2.現行の介護サービス支給限度額の適正性確認である。
●  税化による財源安定を
  まず、このトピックスの764号でも述べたように、少子・高齢化社会では若年層が保険料を負担して高齢者を支えるという社会保険方式がうまく機能しない。いまや労働力人口2.7人で65歳以上1人を支えている。介護保険は制度発足時からすでにその財源の50%は税金であり、社会保険は残り50%だけという問題を抱えていた。社会保険は税に比べて徴収コストが高い。
  仮に財源を完全に税に移行すれば、徴収コストも削減できるうえ、介護問題に実感のない若者までを被保険者に組み込むことも避けられる。
  また介護サービス利用時の介護保険からの支給限度額は要介護度によって異なるが、要支援の利用者で月額61,500円、もっとも重い要介護5で358,300円である。トピックス750号で田中先生がご指摘されているように、介護サービスは医療サービスなどと比べ必要性の根拠が薄弱である。介護保険創設以来、不正請求の発覚によって指定を取り消された介護サービス業者は201件にも及ぶという。ほとんどの業者は適正なサービスを提供しているはずであるが、支給限度額の金額設定の適切性についても検討すべきではないだろうか。
(可児俊信、CFP®、DCアドバイザー、米国税理士)
2004.03.22
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