>  今週のトピックス >  No.795
介護保険制度と障害者支援費施策は本当に“合流”できるのか?
●  補助金の不足で浮上する問題
  3月24日、厚生労働省は、障害者支援費制度のホームヘルプサービスにかかる補助金が14億円不足する見通しであることを発表した。昨年4月から始まった障害者支援費制度の利用者が、当初の見込みよりも6割以上増えたことで計上した予算額を大幅に上回ったためだ。
  厚生労働省の見込み違いは、すでに昨年秋に明らかになり、その段階でホームヘルプサービスにかかる不足額は90億円にのぼっていた。慌てた同省は、他の社会福祉関連予算からの流用などで穴埋めを図り、障害者団体に対しても「全額補てんできる」旨を伝えている。それでもなお「14億円」という不足額が明らかになったわけで、予算編成時の認識が稚拙だったとしか言いようがない。
  この14億円の不足分がどうなるかというと、結局は支援費制度を運営する各市町村が一般財源の中から穴埋めすることになる。この場合、財政の苦しい市町村では、自治体の判断によって支援費そのものがカットされる可能性も出てくるというわけだ。
  障害者が施設や親元から離れ、地域で自立した生活を志す傾向がますます進む昨今、ホームヘルプサービスの利用者は今後さらに増え続けるのは確実だ。支援費制度開始の初年度からこの始末では、制度そのものの根幹を揺るがしかねない。障害者団体は一斉に批判の声を上げているが、このままでは行政との信頼関係が一気に瓦解する恐れもある。
  この問題は、現在議論されている介護保険制度の改正にも少なからぬ影響を与える可能性が高い。周知の通り、介護保険制度改正の目玉の一つには「障害者支援費制度との合流」が掲げられている。仮に合流論議が現実のものとなった時、最も浮上しそうなのが「二階建て方式」という仕組みだ。
●  「二階建て方式」の合流で迫られる自治体と障害者団体の対応
  これは、介護保険による給付を「一階」とし、現行の障害者支援費を「二階」に位置づけるというもの。例えば、全身性の障害をもつ人が現行の支援費制度で1日24時間のホームヘルプサービスを使っているとする。ここに介護保険制度を導入した場合、介護保険における1日の利用上限3時間分が「一階部分」となり、残りの21時間分が介護保険外の上乗せ、つまり「二階部分」となる。
  問題は、小規模自治体の中に、「1日3時間以内」のサービスだけで賄えているケースが9割近くを占めることだ。当然、介護保険との合流がなされれば、上乗せ(二階)部分の予算はゼロとなる。仮にその後で「3時間以上」の利用が発生した場合は補正予算を組むことになるが、財政状況の厳しい小規模自治体においては、いったんゼロになった部分で補正を組むことは大変厳しいのが現状だ。
  つまり、介護保険と支援費を合流させるのなら、いざという時に頼みとなるのは国からの財政拠出が中心とならざるをえない。ところが、今回の騒動のように、国側の見積もりがこれだけ甘いと「頼みとなる」前提は根本から崩壊する。今年に入って、厚生労働省は障害者団体と「介護保険制度と支援費施策の関係」について10回近くも意見交換を重ねてきた。現場レベルのこの地道な取り組みが無に帰してしまうのか否か、障害者施策はまさに正念場を迎えているといえる。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.03.29
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