>  今週のトピックス >  No.811
年金制度改革の本質はどこにあるか
〜「保険料流用」を生み出す財政構造にも注目を〜
●  法案審議の進行を阻む問題点
  首相自ら「100年安心できる制度を」とうたう年金制度改革関連法案の審議が難航している。このたびの年金制度改革は、与野党がともに独自の年金制度案を掲げたことで、国会における論戦が活発化する期待があった。だが、蓋を開けてみれば、制度案そのものの審議以前にさまざまな問題が浮上、野党側の審議拒否と与党側の強行採決という構図がちらつく“いつも通り”の展開に陥っている。
  論戦を阻んでいる問題は二つ。一つは、診療報酬制度の根幹を揺るがしかねない日本歯科医師会の汚職疑惑、もう一つが年金保険料の流用問題である。両者ともに政府側の資料提出や参考人招致のごたつきが問題をこじらせているが、ここでは特に、後者の「年金保険料流用」について掘り下げてみたい。
  この問題は、国民が支払っている年金保険料が、社会保険庁の官舎整備費や職員の住宅建設費、公用車購入費にあてられていたというものである。その額は2002年度までの5年間で約42億円、その後2004年までの2年間も約31億円が、国民に支払われる保険金以外の目的にあてられる見込みであるという。
  週刊誌的には「せっかく納めた保険料がこんな使い方をされたのでは、制度の信頼が保てるわけがない」という論調になりがちだが、問題の本質は「数年来掲げられてきた国の財政改革そのもの」が揺らぎかねない点にある。キーワードとなるのは、財政構造改革特別措置法という時限付きの法律だ。
●  二つの法律にみる「隠れた不良債権」の構図
  同法は1998年に施行された6年間のみの時限付き法律で、国の財政支出を抑えるために一般会計から出していた社会保障関連費に年金保険料などをあてられるようにしたものだ。これに年金関連法上の操作を加えることで、先述した庁舎整備や職員の住宅建設にかかる費用まで、工面できるようになったのである。
  つまり、これは社会保険庁だけの問題ではなく、財務省を含めた国の財政改革の“つじつま合わせ”に年金が使われたという構図を示している。今回の年金保険料の流用分が、「国の隠れた不良債権」と指摘されるのもよく分かる話である(ちなみに、「今週のトピックスNo.795」で触れた通り、障害者支援費のホームヘルプサービスにかかる補助金が14億円不足する事態が持ち上がった。2004年からの年金保険料流用分31億円という額を考えても、社会保障費全体の予算が適正に配分されているのかという疑念にまでつながっていく)。
  この「不良債権の構図」は、さらに続く。3月26日、今国会で予算案とほぼ同時に、「平成16年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」(公債特例等法案)が可決された。これは、本年度の国の財政収支状況にかんがみ、公債発行の特例措置等を認めるというものである。実は、この「等」の中に、いつの間にか「年金保険料を経費にあてる」という内容が含まれているのである。
  先に触れた「財政改革特別措置法」は、今年度で期限切れになる。その代わりとして、国が持ち出してきたのが「公債特例等法案」なのだ。年金改正論議は、制度設計そのものだけを問題にしても、意味をなさなくなっている。国の財政全般に目を配ったうえでの国民的議論が求められていると言える。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2004.04.26
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