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福祉用具貸与のガイドラインが示される
〜現場の不公平感を助長させる懸念も〜
  平成17年に改正が予定されている介護保険制度であるが、現段階で介護保険にかかる財政は非常に厳しい状況を迎えつつある。厚生労働省としても、抜本的な改正を待たずにさまざまな“応急処置”を掲げ始めた。4月後半に同省が発表した「介護保険における福祉用具給付の判断基準」も、その一つと言えよう。
●  福祉用具給付が介護保険を圧迫
  周知の通り、介護保険では特定の福祉用具をレンタルする際の料金を給付対象としている。被保険者が要支援・要介護と認定された場合には、給付限度額の範囲内で、各種福祉用具を1割の自己負担でレンタルすることができる。問題は、この福祉用具のレンタル給付が、介護保険財政を圧迫する大きな要因とされていることだ。事実、制度発足時に4億円規模だった給付費が、たった4年弱で28倍の140億円にまで膨らんでいる。保険給付費の抑制に躍起となる厚生労働省が真っ先に矛先を向けるのも、半ばうなずける。
  今回、同省が示した基準案は、レンタル対象となっている17の福祉用具について、4,500余りの利用事例をもとにしたものだ。特徴的なのは、単なる基準だけでなく、「利用が不適当な要介護度」をはっきりと示した点にある。例えば、「要支援」(要介護1よりも軽い認定)の利用者は「自力での起き上がりや歩行が可能」であるとして、車椅子や介護用ベッドの利用は不適当であるとしている。
●  改正基準案の問題点と今後の課題
  要支援といえば、現在進んでいる介護保険制度の改正議論でも「そもそも介護保険制度の対象から外し、代わりに介護予防に特化したサービスを提供すべきである」という意見が出されている。今回の基準案は、「車椅子や介護用ベッドの利用が、介護予防につながるのか」という疑問をベースにしており、改正議論の方向性とリンクすることは明らかだ。
  この基準案は、4月22日から同省のホームページで公開されており、5月中旬まで一般から意見を募集している。厚生労働省としては、寄せられた意見を集約したうえで、6月にも全国の市町村に通知する予定だ。ちなみに、この基準案はあくまでガイドラインであり、利用者固有の生活環境などによっては適用されないケースもある。だが、現実問題として、ケアマネジャーのケアプラン作成に少なからぬ影響を与えることは間違いない。
  問題となるのは、ケアマネジャーの見解によって、本当は福祉機器が必要な人なのにケアプランに組み込まれなかったり、逆に、必要がないのにレンタル給付が降りるというバラつきが生じてしまうことだ。今回示された基準案を一読する限りでは、こうした見解のバラつきを抑えることを期待するには、やや表現が抽象的すぎるような気がする。
  こうしたガイドラインを示すのであれば、例えば要支援利用者の「介護予防プラン」について、ケアマネジャー全体の力量を高める施策を同時に打ち出す必要があるのではないか。介護予防に対する議論が煮詰まらない中で、今回のようなガイドラインが一人歩きすると、現場レベルでの混乱が助長され、介護保険に対する国民の不公平感が逆に高まるのではないかという不安がぬぐえない。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2004.05.10
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