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金融緩和政策の維持姿勢が垣間見えた日銀「経済・物価情勢の展望」
  4月28日、日本銀行は、政策委員会の金融政策決定会合において、「経済・物価情勢の展望」(従来の「経済・物価の将来展望とリスク評価」から名称が変更)を発表した。同リポートは、4月と10月の半年ごとに発表され、金融政策の先行きを占う上で注目されている。
●  経済・物価情勢の2004年度見通し
  リポートでは、「昨年後半以降、輸出の増加を起点に、生産、企業収益が拡大した。これが設備投資の増加につながり、個人消費もやや強めに推移する中で、景気は緩やかな回復を続けた」と現状を分析している。そして、先行きについては2004年度の標準シナリオとして「景気は回復を続ける」と予想している。
●  上振れ・下振れ要因
  2004年度の標準シナリオに対する上振れ・下振れ要因としては、いずれの要因にも作用しうるものとして、「海外経済の動向」、「国内金融・為替市場の動向」、「国内民間需要の動向」を挙げ、下振れに作用しうる要因として「不良債権処理や金融システムの動向」が挙げられている。
●  デフレ克服の展望と金融政策運営
  デフレ克服の展望については、政府や日本銀行の政策、民間企業の経済活動の収益向上への取組み、金融機関における不良債権処理など、これまでの取組みを粘り強く続け、景気回復の動きがさらに確かなものとなっていけば、経済全体の需給バランスの改善が進み、デフレ克服の可能性が高まっていく、としている。   その上で、注目される金融政策運営について、現在の金融緩和の枠組みがおよぼすプラス効果を挙げた上で、「引き続き量的緩和政策を堅持していくことにより、日本経済の持続的な成長とデフレ克服の実現に取り組んでいきたい」としている。   日銀は、2001年、コールレート*1を政策上の操作目標とする方式から、市場の資金量を表す指標の一つである日銀当座預金残高*2へ変更するいわゆる「量的緩和政策」の枠組みを採用し、金融政策手段の一大転換を図って今日に至っている。その際、量的緩和政策は「消費者物価指数(全国、生鮮食品を除く)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで」継続することを公約している。消費者物価指数は、最近単月ではプラスになるケースもあるものの、今回のリポートにおける消費者物価上昇率の2004年度平均の予想(下表参照)は依然マイナスとなっていることから、今回のリポートは当面現行の政策を維持するとのメッセージを市場に発したものとみられている。
*1コールレート
金融機関同士の資金の貸借市場であるコール市場の金利。有担保・無担保、および期間の別があるが、一般に取引量の多い無担保・翌日物(オーバーナイト)の金利が指標となっている。
*2日銀当座預金残高
日銀当座預金とは、市中銀行が日本銀行に保有する当座預金のことで、一定割合(預金準備率)を超える金額については市中銀行が自由に引き出して使えることになっている。このため、日銀が買いオペレーション(銀行からの債券などの購入)を通じて、その残高を増加させれば、銀行貸出の増加が促進され、ひいては景気へのプラス効果が期待される。
【2004年度政策委員の大勢見通し(対前年比、%。なお< >内は政策委員見通しの中央値)】
GDP
国内企業物価指数
消費者物価指数
(生鮮食品を除く)
+3.0〜+3.2
<+3.1>
+0.1〜+0.3
<+0.2>
-0.2〜-0.1
<-0.2>
各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したもの。
出典:「日本銀行政策委員会 経済・物価情勢の展望」
2004.05.10
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