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従業員のメンタル不全と企業の対応
●  心の病は企業の損失
  企業の人事政策において、大きな経営課題となりつつあるのが、従業員のメンタル不全である。うつ病が大部分を占めるとされる「心の病」だ。(財)社会経済生産性本部発表の「産業人メンタルヘルス白書」では、調査対象の282社のうち、6割以上の企業において心の病で1カ月以上休職している社員がいることが明らかにされている。
  うつ病は、仕事熱心で責任感が強い人がなりやすいとされる。それどころか、うつ病資質者が持つ「攻撃ノイローゼ」や「執着性格」が日本の高度成長の一因であったとする声もある。バブル時代からうつ病の社員は存在したものの、バブル崩壊後の低成長、成果主義の導入に伴って、表面化したとされる。その意味で成果主義が浸透した企業、または業界環境が悪く業績の上がらない企業ほど、多くの潜在患者がいると想像される。
  企業もメンタルヘルス対策を重視しており、厚生労働省の調査(平成14年)では、1,000名以上規模の企業の9割が、「心の健康対策に取り組んでいる」と回答している。具体的には、「カウンセリングの実施」が55.2%、「定期健康診断による問診」が43.6%、「職場環境の改善」が42.3%となっている。例えば松下電器健康保険組合では、「生活習慣病」「喫煙」のほか「メンタル不全」を3大テーマとして、グループ152社で『健康松下21』を推進している。
  企業がメンタル不全に取り組んでいる背景には、これを放置すると企業の損失につながるという危機意識がある。
  損失には、1.医療費増、2.労働力減、3.企業のイメージダウンの3つが予想される。
  うつ病などの治療にかかる医療費は、組合健保であれば財政悪化につながる。また症状が進行しての休職では、当然、その従業員の労働力が失われることになる。実際に2000年の労働者の自殺件数は8,215人であった。
  さらに、心の病が労災認定される環境が整いつつある。そのため、患者の多発は企業のイメージダウンにつながる可能性がある。
  労災認定される環境については、まず1999年に当時の労働省が、過労による精神障害に関する労災に認定基準を定めた。これは心理負荷に関連する31のチェック項目表である。これにより各労働基準監督署で労災認定の判断が可能となり、認定の機会が増えた。
  また2000年には、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を策定、企業に対し、社員からの相談に応じたり、職場環境を改善することを求めている。
  さらに、5月2日付けの朝刊紙によれば、厚生労働省は、次期通常国会で労働安全衛生法を改正する予定だという。社員が抱える心の病を、診断結果などを通して、上司や産業医が把握するように義務付けることや、外部の精神科医の診断結果を会社に提出した場合にも、適切な措置を講じるよう企業に義務付けることなどが盛り込まれるという。
(可児 俊信、(株)ベネフィット・ワン主席コンサルタント、CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2004.05.17
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