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財務省審議会が「平成17年度予算」についての意見書を発表
〜国民に押し寄せる厳しい「痛み」〜
  日本の社会保障制度の行く末を観察する場合、厚生労働省内の議論ばかりに目を配っていても見えてこない部分がある。省庁間の力関係を考えれば、むしろ予算を一手に握る財務省の動きに注目した方が予測は立てやすい。
●  政府内の意見のズレが国民生活に大きく影響
  5月17日に発表された財政制度等審議会の「平成17年度予算編成の基本的考え方について」という意見書も、その一つである。同審議会は財務大臣の諮問機関であり、小泉首相の肝いりである政府の経済財政諮問会議の動きとも密接に結びついている。
  今回発表された意見書によれば、冒頭において、先に政府が示した潜在的国民負担率の50%という数値目標を掲げ、「こうした中長期的な展望を確固たるものにするために(中略)財政の政策決定と執行に携わる者すべてに厳しい反省と自覚を求める」としている。同時に示された資料には、他予算に比べて突出している社会保障費のグラフが示されており、その点を考えると、「厳しい反省と自覚」を求める対象が厚生労働省であることは明らかだ。
  実は、この1週間ほど前に、厚生労働省が「2025年度の潜在的国民負担率は56%」と試算したデータを発表している。政府や財務省が求める目標とのズレ6%は、金額にすると31兆円にのぼる。当然、この31兆円という数字をめぐって政府内で激しい攻防が続くことになり、その影響は国民生活にも大きく及んでくることは間違いないだろう。
●  過激なまでの「痛み」改革案も
  各論については、社会保障制度全般の一体的な見直しを強く求めている。特に「介護」については、平成17年度の介護保険法見直しに向けて、「受給者負担率を現行の1割から2〜3割に上げること」や「施設におけるホテルコスト(家賃に相当する部分)や食費などを保険給付の対象から外すこと」が改めて強調されている。加えて注目すべきなのは、低所得者に対する負担軽減措置について、「その範囲を低収入で低資産の者に限定することが適当である」と述べられていることだ。
  つまり、収入がない者でも相応の資産を有する者であれば、負担軽減措置から外すと言っているに等しい。一連の意見をそのまま解釈すれば、「施設に入所する者からはホテルコストを徴収するが、それが払えない場合は資産を売却しなければならないケースもある」ということだ。例えば、土地や家屋を売却すれば、在宅には戻れない。これは一つ間違えば、施設から在宅復帰へというビジョンに逆行することにもなりかねない危険をはらんでいる。
  もちろん、審議会側もそのあたりは意識しているようで、「受給者の死後、残された資産により費用を回収する仕組みも検討すべきである」としている。これは、資産を担保としながら自治体が資金を提供する、いわゆるリバース・モゲージなどの制度を想定しているものと言えるだろう。
  とはいえ、この過激とも言える「痛み」改革が、果たして国民の理解を簡単に得られるかどうかは不透明だ。それ以前に、国民批判の矢面に立つ厚生労働省が首を縦にふれるようなものなのか。ボールを受け取った厚生労働省側の各種審議会の動きが注目される。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2004.05.24
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