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ペイオフ全面解禁と大口預金者の動向
  2005年4月に実施されるペイオフ全面解禁によって、大口預金者の資金がどのようにシフトするかを考えてみる。
  銀行預金は、預金者の要求によっていつでも払い戻せるものと、原則として一定期間払い戻せないものの2つに区分され、前者は「要求払預金」、後者は「定期性預金」と呼ばれている。
●  破たん時における預金の取り扱いの違い
  ペイオフに関連した両預金の最大の違いは、金融機関破たん時における取り扱いである。2002年4月よりペイオフ制度が一部解禁された結果、定期性預金は1金融機関1人あたり1,000万円とその利息までは保障されるが、それ以上の金額については、金融機関の清算状況によって決定されることになった。一方、要求払預金は、2005年3月まで全額保護となっている。この取り扱いの違いが両預金にどのような影響を与えたのかは以下の図表1・2を見れば明らかであろう。
【図表1 要求払預金と定期性預金の残高推移(国内銀行)】
【図表1 要求払預金と定期性預金の残高推移(国内銀行】
【図表2 個人の要求払預金と決済性預金の残高推移(国内銀行)】
【図表2 個人の要求払預金と決済性預金の残高推移(国内銀行)】
(図表1、2の出典:日本銀行 金融経済統計より)
●  ペイオフ全面解禁後の影響
  来年4月からは、要求払預金に対してもペイオフが解禁されるペイオフ全面解禁が予定されているが、定期性預金からの退避資金が要求払預金に高止まりしている現状で全面解禁となれば、銀行からの大量資金流出による金融不安が再燃する恐れもある。そのため政府は、「無利息」「いつでも引き出し可能」「決済可能」という3つの条件を満たす預金(以下、決済性預金)については、2005年4月以降も全額保護とすることを決定し、金融不安を封じ込める策をとった。
  2005年4月以降、銀行預金が、ペイオフ解禁の影響をどのように受けるかを金融商品別(下表)にまとめてみた。
【銀行預金とペイオフ解禁の影響】
金融商品名
2005年3月末まで
2005年4月以降
定期預金
普通預金等とは別に
一人当たり「1,000万円+利息」は保証
普通預金等も含め合計で
一人当たり「1,000万円+利息」は保証
普通預金
全額保護
定期性預金等も含め合計で
一人当たり「1,000万円+利息」は保証
決済性預金
全額保護(ただし、2004年5月現在では
ほとんどの金融機関で取り扱いなし)
全額保護
外貨預金
保護されない
保護されない
●  大口預金者の動き
  この決済性預金の登場で、ペイオフは骨抜きになった感があり、今後、国内金利の上昇に伴う預金金利上昇が起こらない限りは、大口預金者を中心に普通預金から決済性預金へ資金シフトが起こるであろう。なぜなら、普通預金金利が現在のように0.001%程度である状況下で、無利息の決済性預金が登場した場合、0.001%の金利を期待して「1,000万円+利息」までしか保証されない普通預金を選択する預金者は、大口預金者に限って言えば極めて少数派といえるからだ。言い換えれば、ほとんどの大口預金者は、「0.001%程度の利息よりも元本の全額保障」を求める可能性が高いということである。特に2002年以降、ペイオフ対策に頭を痛めてきた超大口預金者ほどその傾向が顕著にあらわれるであろう。
  2002年の定期預金に対するペイオフ解禁が実施された時期と比べ、日本経済には幾分明るさが見えてきているとはいえ、デフレ克服、そして預金金利上昇に至るまではまだ若干の時間が必要である。そのため、金利にはほとんど魅力がない普通預金から「全額保護」という絶大な魅力を持った決済性預金に資金シフトが起こるというシナリオは当面変化がないと思われる。
要求払預金は、普通預金に当座預金・通知預金・別段預金・納税準備預金などが含まれる。
2004.05.24
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