>  今週のトピックス >  No.835
グループホームへの風当たりが強化
〜介護保険の改正で「痴ほうケアの切り札」はどうなるのか〜
●  介護保険法改正案の論点
  介護保険法の改正案が8月末にも国会に提出される見通しとなり、改正をめぐる省内の審議会議論も大詰めを迎えている。今までの議論から垣間見える改正ポイントを追っていくと、利用者負担だけでなく、介護サービス事業者の経営戦略にも大きな影響が及ぶことは確実だ。例えば、比較的要介護度の軽い高齢者に「介護予防サービスの利用を義務づける」という点について、一部の大手訪問介護事業者は、すでに具体的なサービス提供の体制を整備しているという情報もある。
●  事業者に大きな影響を及ぼしかねない政策的誘導
  そうした中で、事業者に対して非常に大きな影響を招きそうな事案に目を向けてみたい。それが「グループホーム」をめぐる政策的な誘導である。周知のとおり、グループホームというのは、何らかのケアが必要な利用者が5〜6人単位で共同生活を営み、その場に必要な支援を提供するというもので、介護保険制度では痴ほう性高齢者が給付の対象となっている。
  大規模施設のような多額の初期投資を必要とせず、株式会社などの営利法人も参入できるため、介護保険制度の施行後、事業所数は急速に伸びている。平成13年4月から平成15年4月までの2年間で、事業所数は3倍、給付費に至っては4倍の伸びを記録した。
  介護保険財政の悪化と保険料の伸びに頭を抱える国および地方自治体にしてみれば、「グループホームの増加をいかに抑えるか」という思惑は当然頭をもたげてくる。特に、保険者である市町村が、グループホームに向ける目は非常に厳しい。
  そもそも市町村は、保険者でありながら、介護保険事業者を指定する権限がない(原則として都道府県知事に指定権限がある)。加えて、グループホームというのは住所地特例の対象外であるため、設立数が増えれば増えるほど、その市町村の介護保険財政をストレートに圧迫することになる。
65歳以上の特別養護老人ホームの入居者が住所を移した場合、入居前に住んでいた市町村が保険料を徴収する制度
●  厚生労働省の狙い
  そんな折、一部の新聞で以下のような報道がなされた。厚生労働省が「グループホームなどの一部のサービスについて、市町村が介護報酬を設定できるようにする」ことを検討しているというものだ。どこまで現実味のある話かは不明だが、給付費の基準となる介護報酬を市町村が抑え込めるという点で、主な狙いの一つにグループホームの増加を抑えるという意図があることは間違いない。
  もし、これが現実のものとなれば、昨年の介護報酬改定で認められた「グループホームの夜勤加算」などの運営安定策が相殺されかねない。営利法人の中には、グループホーム事業からの撤退を考えるところも出てくるだろう。
  確かに、グループホームが急増する中で、「痴ほうケアの切り札」とは名ばかりの劣悪なグループホームが目立つようになったのは事実だ。だが、これは保険者である市町村に監視と許認可の権限を与えればよい話で、一足飛びに「報酬額で締め付けよう」という発想は、それなりのコストをかけながら良質のケアを提供しようとしているグループホームにこそ、しわ寄せを及ぼしかねない。実際の改正案作成では、慎重な対応が求められる。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2004.06.07
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