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2008年にも「新たな高齢者医療制度」誕生
〜社会保障制度史上、例を見ない負担増!?〜
●  “新医療保険制度”の創設
  老人医療費が年間11兆円を超え、国の医療財政を圧迫している。特に75歳以上のいわゆる後期高齢者は長期療養が必要なケースが多く、今後も高齢化でこの世代が増え続ければ、現行の老人保健制度では支えきれなくなる。
  そこで、現在、後期高齢者を対象に「新たな高齢者医療制度」を設立するという案が議論されている。すでに厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会では、この新制度の大枠を整え、早ければ2005年にも法案として国会に提出する予定だという(制度開始は2008年度からになるといわれている)。
  従来の老人保健制度が、国民健康保険や被用者保険といった公的医療保険の枠内で支えられてきたのに対し、この新制度は完全に独立させた「新たな社会保険」を生むことになる。給付財源については、現段階で、公費からの負担が50%、残りの50%を75歳以上からの保険料と75歳未満からの「連帯保険料」でまかなうという案が有力だ。
  「連帯保険料」という聞きなれない言葉が出てきたが、これは、直接給付を受けない国民も保険料を負担しなければならないという意味から「連帯」という言葉が使われている(「連帯保証人」や「連帯責任」という言葉を思い浮かべてもらえば、わかりやすい)。75歳未満の国民にとっては、従来の公的医療保険とは別に保険料が発生するわけで、極めて重い負担となることは間違いない。
  主に65歳以上の高齢者が給付対象となる介護保険でさえ、特定疾病という条件が合えば、40歳以上65歳未満の被保険者も給付対象となる。次回改正で、保険料徴収を20歳からにする案が出ているが、その場合も「若年障害者」を対象とすることで負担と給付の関係に整合性を付けようとしている。年金制度でも、障害年金という存在があるから、若い世代も給付対象としてかかわってくる。
  これに対し、まったく給付対象にならない世代が保険料を負担するという設計は、日本の社会保障制度の考え方を覆すものであり、それだけ「高齢者医療」に対する課題がひっ迫していることを示しているといえる。
●  新制度の問題点と今後
  社会保障制度史上、例を見ない国民負担を強いるにしては、問題点や不明な点は多い。
  まず、新保険の保険者が未定であるという点。現行の公的医療保険の保険者である市町村や健保組合が、そのまま保険者となる案も有力だが、現状の保険財政がどこも破たん寸前に追い込まれている中での抵抗は根強い。厚生労働省からは、保険者の財政負担を緩和するために、生活習慣病などの疾病予防対策に取り組んだ保険者に対しては、負担を軽減する仕組みを導入するなどの案も出されている。だが、その評価方法などについて、具体的な方策は示されていない。
  もう一つは、75歳以上という高齢者に、新たな保険料負担を強いることができるかという点だ。周知の通り、年金給付がますます厳しくなる中で、どんなに負担軽減策を導入しても後期高齢者への負担増というのは、あまりに現実離れしていないだろうか?
  ここでも、「結局は消費税で」という声が少しずつ大きくなって行きそうだ。ここまで消費税依存の雰囲気が蔓延してくると、果たして消費税率をどこまで上げれば済むのか。想像することすら怖くなる。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.06.21
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